神楽坂の料亭

日本料理人になりたい」
そう思った方が日本料理の世界に飛び込んだときに必ず必要になるのが「板前修業」、つまり「下積み時代」です。

日本料理人が一人前と呼ばれるのは、和食調理の五法(生・煮る・焼く・揚げる・蒸す)を現場で学び、一通りの日本料理を作れるようになるまでを指します。
では、実際の「板前修業」とはどんなものなのか。

料亭に修業に入った場合の一例を紹介させて頂きます。

下積みから一人前までの流れ

頭に紫色のハチマキをした寿司職人の男性

いざ日本料理店に就職して下積み修業をはじめても、最初から調理作業を任されることはありません。
追い回しと呼ばれる雑務を担当するポジションから一歩一歩昇格し、順を追って各持ち場で必要となる技術を習得して、最終的には板場を目指していきます。

日本料理店での板前修業5段階の流れ

店によってポジションの名称などは多少異なりますが、

  • 追い回し・下積み
  • 八寸場・盛り付け
  • 焼き場、揚げ場
  • 蒸し場、煮方
  • 板場

というような分け方をすることが多いようです。

それぞれの修業段階での具体的な仕事内容と、大切な心構えを紹介します。

追い回し・下積み

入店してまず最初に新人は、「追い回し」と呼ばれるポジションにつきます。

主な業務は、掃除や鍋・調理道具・皿などの洗い物。
他には、器の用意や野菜の下処理といった下準備を先輩方から任されます。

野菜の下処理に慣れてくると、板場でお刺身の盛り付けに使う大根の桂剥きや、薬味ネギなどを、先輩に見てもらいながら包丁の使い方を勉強します。

「追い回し」という言葉は、各ポジションの先輩から雑務を任されることが多く、追い回されているほど忙しいという意味合いから成っています。
まずは店全体の1日の動きや年間を通しての季節ごとの動き、各ポジションの先輩たちの担当業務等を把握することが大切です。

日本料理の世界において「下積み3年」という言葉もあるくらいですが、現在は下積みに3年もかかっているところはほとんどありません。
1〜2年のうちに追い回しを抜け、次のステップを目指すのが一般的です。

その後は四季の料理を各ポジションで体験し、1年毎にポジションをステップアップしていくのが理想的です。

白い壁、白いタイルの厨房。奥には業務用の冷蔵庫が置かれ、コンロの上には様々な鍋がつるされている。

下積みの大切な心得

下積み時代に大切にすべきことは現場の流れを把握することです。

多くの現場では、追い回しが「まかない作り」を担当します。
まかないは、調理スタッフや接客スタッフが食べる料理のこと。

お客様に出すものではありませんが、予算・食材の制限のある中で工夫してメニューを考え、目標時間に間に合うように調理をしなければなりません。

メニューの内容や味付けは先輩たちの評価の対象となるので、認めてもらうためにも絶好のアピールの機会になります。

また、新人が特につまづきやすいのは、段取りです。
先輩のフォローをすることがメイン業務の下積み時代ですが、先輩の動きや店の流れがわかっていないとうまく立ち回ることができません。

続いて「段取り」についてご説明します。

例えば、てんぷらが揚がったとき、盛り付ける為の器や天つゆなどが用意されておらず、揚がった後に用意を始めていたのでは、てんぷらが冷めてしまいますよね。
つまり、揚げ場の先輩が揚げ物を揚げ終えるまでに、器、天つゆ、天紙を用意しておかなくてはなりません。

上記の例でも分かるように、料理で大切なのは調理技術だけではなく「段取り」を組む力です。

すぐに調理作業に入らせてもらえないのは、お客様に提供する料理を段取り良くお出しすることができるという信用がないためです。

まかない作りや皿洗いなどを段取り良くこなせるようになれば、料理長や先輩から「こいつにならもっと任せても大丈夫かも」と次の修業ステップへ進めてもらうことができます。
ひとつひとつの仕事にしっかり取り組めば、いずれチャンスが巡ってくるのです。

先付け・八寸場

お客様にお出しする料理をさわる仕事を任せてもらえることになります。

ただし、調理ではなく、煮方さんや焼き場さんが仕込んだ料理を、「先付け」や「八寸」として器に盛り付ける作業を主に担当します。
先輩や料理長の盛り付け見本に従い、盛り付けの基礎的な感覚を身に着けます。

お皿の上に7種類の料理が少しずつ盛り付けられている。

先付け・八寸場の大切な心得

このポジションで一番学ぶことになるのは、料理の見た目に直結する盛り付けのセンスと技術です。
特に、先付けはお客様が来店してまず最初に召し上がるものなので、第一印象を決める大切な一皿になります。

他の持ち場とタイミングを合わせながら、また、お客様の食べ進めるスピードに合わせながら、冷菜、温菜、それぞれベストタイミングでお客様に提供できるようにスピーディに盛り付けを仕上げていく必要があります。

加熱や味付けなどに直接関わることは少ないかもしれませんが、全ての料理の最後の盛り付けを担当するので、コース料理全体を見渡しながらチームワークで作業することが求められます。

また、食材の旬を大切にする日本料理では、見た目の美しさも味のうち。
ここでさまざまな食材や料理法を学ぶことになります。

この段階ではまだ本格的に包丁を扱う仕事は担当できません。
まずは、お漬物を均等なサイズに切り分けたり、簡単な作業から包丁を持たせてもらいます。


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