
大阪梅田から電車で約20分。大阪のベッドタウンとして発展してきた茨木市の駅前に2022年8月、焼肉「ちはら」がオープン。店主の渡邉直紀さんにインタビューしました。
店舗は落ち着いた古民家様式。『肉質がよく価格は庶民派』とオープンから半年が経ち、着実にリピーターも増えています。特に完全個室のお部屋は、誕生日や記念日の食事会などにも好評です。音楽や花束、ケーキのサービスもあり、お客様から「本当にいい思い出になった」「落ち着いて食事が楽しめた」と喜ばれているのだそう。
10代~20代、仲間と楽しく過ごした地元での日々。そんな自分が育った街で商売をスタートさせた渡邉さんに今の課題とこれからをお聞きしました。(取材:2023年3月16日)
※リレーインタビュー「力士や野球選手はじめ、有名人が通う「ちゃんこ鍋 春日」。地域と歩む飲食店の価値とは【リレーインタビューVol.30】の傍嶋 博信さんからのご紹介です。
<プロフィール>
渡邉 直紀(わたなべ なおき)さん 焼肉「ちはら」店主
1991年・福岡県生まれ・大阪府茨木市出身。2017年、26歳で建設業から飲食業界に転職。友人が経営する店の立ち上げに携わる。2022年8月、独立して大阪の阪急茨木市駅前に焼肉「ちはら」をオープン。
コロナ禍で焼肉店をオープン!スタートに必要なことは「思いきり」
編集部:2022年8月に、独立して阪急茨木市駅前に焼肉店をオープンされたとのこと。半年経ちましたが現在いかがですか?
渡邉さん:開店当初は、オープン景気に助けられてお客様もたくさんお見えになりました。途中少し落ち込みましたが、半年経って最初のお客様が、次のお客様を連れて来てくださるようになりリピーターが増えてきました。なんといっても僕の地元なので知り合いも多く、そこは強みかもしれません。
編集部:グルメサイトなどの口コミ評価もいいですよね。特に「お肉の質が良くて、価格は庶民派」とのコメントが多いですね。
渡邉さん:ありがとうございます。カットされたものを仕入れるのではなく、ある程度の塊となっている肉を仕入れて店内でさばいています。
編集部:肉の手切りは技術が必要かと思いますが、そもそも飲食業界に入ったきっかけは?
渡邉さん:この業界に入ったのは、僕の小学校からの同級生が初めて店を立ち上げる際に誘われたことがきっかけです。といっても食べ物屋さんではなくお酒をメインにしたお店です。それまでは建設業界で現場作業の仕事をしていました。
最初は躊躇していたんです。建設業界でもくもくと作業してきた自分は、コミュニケーションが欠かせない業界は務まらないと思っていましたから。でも何度も誘ってくれて26歳の時に建設業から転職しました。勤務していた店は大阪市内にある店です。
編集部:飲食業界に入って、どう感じましたか。
渡邉さん:働くうちに、意外に人と関わる仕事もできそうだと思えるようになったんです。そのうち数値管理から店舗PRまで、ほぼ店の運営を任されるようになりました。お客様に笑顔でお帰りいただき、原価を見て利益を生み出していくことの面白さを知りましたね。
編集部:開業のきっかけは?
渡邉さん:この業界に誘ってくれた同級生が「阪急茨木市駅前に空き店舗が出たから確保したけど運営してみない?」と独立の出資をしてくれたことです。ちょうど僕も自分の店を経営してみたいと思っていたので、不安はあったけれど「思い切った」の一言です。
編集部:ご家族は心配なさらなかったんですか?
渡邉さん:家族はむしろ応援してくれました。それまで夜の仕事だったので「地元で焼き肉屋さんならいいね」と安心できたようです。ただ料理については自炊レベルで、プロとしてはゼロです。だから業態を「焼肉」に決めてから、イチから肉の勉強を始めたんですよ。
肉の部位を覚えるのに一苦労!店のリノベは自らの手で
編集部:修業はどちらで?
渡邉さん:大阪・ミナミにある姉妹店・ホルモン「ちはら」で半年間、みっちり学びました。まず苦労したのは部位の名前を覚えることですね。肉と一言でいっても細かく部位が分かれていて、カットの仕方も細かく違います。素人は肉だけ見ても、それがどこの部位か判別がつかないと思います。
編集部:それは聞いたことがあります。半年で熟知し、包丁の技を自分のものにするのはすごいですね。
渡邉さん:オープンまでの半年間で、肉の勉強をしながら、仕入れ先の開拓を行い、さらに店そのもののリノベーションも自分たちで行ったんですよ。朝から店の工事をして、夜は肉の勉強をして24時間フル稼働でした。
編集部:それは大変だったでしょう。でも元建設業の経験が役立ってますね!
渡邉さん:そうなんですよ、外壁塗装も手がけたので、ずいぶん時間がかかりましたが経費も節減できたし。もともと兄貴も建設業だったので手伝ってくれました。厨房は兄貴とほぼ二人だけですべて仕上げたんですよ。
ふすまなどは居抜きの前の店のままで、良いところはそのまま使わせていただきました。振り返るとまあ大変でしたが、その分、思い入れはあります。
編集部:規模としては50席くらいでしょうか。独立1店舗目にしては大きめのお店だと思いますが不安はなかったのですか。
渡邉さん:いや、不安はありましたよ。もともと修業してた大阪・ミナミにある姉妹店・ホルモン「ちはら」はここの半分のキャパで従業員3人なんです。
オープン以降、店長をはじめスタッフが仕事をしっかり覚えて、成長してくれたので乗り切れたと思います。今は従業員、平日4~5人、週末6~7人でまわせるようになっています。もともとオープン当初は倍の人数でまわしていたんですよ。来店者数のほうもコロナの影響は思ったよりなかったですね。
編集部:焼き肉と回転すしはコロナ禍でも強い業態だと聞きます。スタッフ教育で工夫をされたことはあるんでしょうか。
渡邉さん:店長はまだ若いのですが、まずはソフトな対応でお客様に接するように伝えて、アルバイトへの対応も、僕が注意役、店長はもともと優しい性格なのでフォロー役と役割分担して、やりやすい環境を作るように心がけています。あと肉の捌きでは客観的に見て綺麗な盛り付けを心がけるなど、今でも店長と試行錯誤しながらやっていますね。
ほかにも料理が苦手なスタッフが中にはいますが、一人一人のペースを大事に、時には「包丁捌き、おっそー!」など、笑いながら楽しく指導するように心がけています。でも大学生や高校生…年齢の離れたスタッフを育成するのはむずかしいですよね。頭ごなしに怒る時代でもないですしね。
面接時に「楽しい職場」にしようと言って採用しているので、忙しいときは集中して業務にあたるけど、そうでないときは、ジョークを言ったり笑ったりとメリハリをつけています。
編集部:地元に出店とのことですし、知り合いの方もフランクに使えるお店ができて喜んでらっしゃるでしょうね。
渡邉さん:建設会社でお世話になった方々も来てくれますよ。ただ知人が来ると、みなさん必ず「渡邉くんの外見が昔とぜんぜん違う」と言われます。確かに、建設会社にいた頃は、自分で言うのもなんですが、ちょっとやんちゃな風情だったかも(苦笑)。
目下の課題は、郊外店舗の売上の伸びしろをどう作るか
編集部:お店はリピーターも増えてきているとのことでしたが、今の課題はなんですか?
渡邉さん:郊外店舗ならではの売上アップの筋道をたてることでしょうか。
お店の運営するうえで大切なことは、
「お客様に笑顔でお帰りいただくこと」そして「利益をうみ出すこと」。
この2つに尽きると思っています。
郊外の店は、お酒の注文が少ないんです。焼き肉でいえば、大阪市内なら売上げの約4割はお酒になるので、そのへんの難しさはありますね。
編集部:都心と郊外では出るメニューが違うんですね。郊外は車での来店も多そうですし、ファミリー層が多いと女性やお子様も多く、アルコールの注文は減りますね。
渡邉さん:そうなんです。それに対しては、ファミリー層に向けた新しいメニューなどを積極的に打ち出しています。で、仕上がったものは試食として常連さんやターゲットとなるファミリー層の方に食べてもらいます。もちろん無料サービスです。そうやって意見をもらって改善し、ブラッシュアップしてから提供するように心がけています。
編集部:試食サービスも含めてお店との交流があると、お客様の心に残りますよね。そのほかに気を付けていることは?
渡邉さん:肉の仕込みですね。ここは手が抜けません。ホルモン「ちはら」で学んだことですが、肉本来の食感や食べやすさなどを考慮して、肉に細かい切り込みや隠し包丁をいれています。それによって、シニアの方にも食べやすかったりというのはあるので。
あとはランチメニューも始めました。特に40代以上の女性のグループが多いです。焼きながら食べるスタイルなので、時間に余裕のある方や、年配の方に喜んでいただいています。一人焼肉を楽しむ方もいますよ。
編集部:ランチで食べたお客様が、次はご家族で食事に来店なさることも多そう。夜の営業にもつながりそうですね。
青年会議所に仲間入り。今後は地元の農家さんとつながっていきたい
編集部:今後は、店をどのように運営していきたいですか?
渡邉さん:当店をご紹介いただいた「ちゃんこ鍋 春日」さんのように、長くたくさんの人に愛される店に育てていきたいと思いますね。飲食業を通じていろいろな人とつながり、多くの世界を見てみたいと思っています。
先日、「ちゃんこ鍋 春日」の店主・傍島さんから、
「地道なPR手法だけど、郊外エリアでは懇意にしてもらってるお客様や自営業をされている方への年賀状の送付など、アナログの手法も大切だよ」とアドバイスをいただきました。
僕たちはSNSでの情報発信はしているんですが、年賀状などは思いもつかなくて。梅田、ミナミなら、インフルエンサーの人にSNSでPRを依頼すると、それなりの手ごたえを感じることができるんですけど、このあたりでは効果がイマイチなんですよ。だからそれはやめました(笑)。
編集部:地域に合わせたPR手法が大事なんですね。特に郊外店舗は住んでいる層が幅広いですしね。
渡邉さん:そう。地道に地道にいきます。あとは地元の農家さんとつながっていきたいと思っています。大阪・茨木市をはじめ、地域の農家さんが作る野菜を店舗で出していきたいです。最近、青年会議所にも入ったんですよ。地域での横の関係もグッと深くなり、近いうちに周辺農家さんともつながっていけるのではないかと思っています。
編集部:いいですね。食材から地域に関わって、茨木市をはじめ北摂エリア(大阪北部)の「食」を盛り上げていってくださいね。今日はありがとうございました。
まとめ
渡邉さんに「起業する人にアドバイスするとしたら?」と質問したところ、「まずはやってみることが大事」との回答。「やりたい」で止まってしまうと夢のままで終わってしまうので、まずは「一歩踏み出す勇気を持つこと」とのことでした。
前職で培った数値管理・マネジメント経験を活かして、郊外の焼肉店を切り盛りする渡邉さん。赤字に落ち込んだ時期を乗り越えて、今はファミリー層やカップル、女子会と老若男女が多数来店する店へと成長中です。店には地元エリア出身の男性格闘家・萩原京平さんをはじめ、プロ野球選手も来店されるそうです。飲食業を通じてさらに多くの世界とつながっていってくださいね。
<取材・記事作成:杉谷 淳子>
<取材協力>
店名 | 「焼肉 ちはら」 |
住所 | 大阪府茨木市末広町1丁目7 阪急京都本線「茨木市駅」東口(北口改札)より徒歩約1分 |
営業時間・休み | ランチ:11:30~14:30(L.O.14:00) ディナー:17:00~24:00(L.O.23:30)月曜定休 |
SNS | ホットペッパー、食べログ、ぐるなび |
<写真提供>
焼肉「ちはら」
※インタビュー画像のぞく
※リレーインタビューは今回でお休みとさせていただくことになりました。2021年、コロナ禍のイタリアからスタートしたこのコーナーにご登場いただいた方は33人。本当にありがとうございました。