さまざまなワインのラベル

ワインといえば気になる2022年ボージョレ・ヌーヴォーの解禁日が近づいてきました。今年は11月17日が解禁日です。
とはいっても「ワインの世界は奥が深すぎて、何を選べばいいのかわからない」。そういう方も多いはず。そこで今回、兵庫県芦屋市でワインショップ「ワインガーデン リブゴーシュ」を営む細谷 志朗さんに

  • 美味しいワインに出会う方法
  • 家庭での飲み方のポイント
  • 2022年ボージョレ・ヌーヴォーおすすめワイン

について教えていただきました。教えていただいたワインはいずれも買い求めやすい商品なのでぜひ参考にしてみてくださいね。
(取材:2022年9月15日)

※リレーインタビュー「バーは奇跡が起きる場所。バーテンダーが語るオーセンティックバーの魅力【リレーインタビューVol.25】」の伊藤 彰彦さんからのご紹介です。

<プロフィール>
細谷 志朗さん
1961年生まれ・兵庫県芦屋市出身。大学卒業後、酒造メーカー「白鹿」に就職。その後、大正時代創業・祖父の代から営む「細谷酒店」に勤務。1988年頃からワインに惹かれて学び始める。1995年の阪神淡路大震災を機に店を継ぎ、1998年、ワインショップ「ワインガーデン リブゴーシュ」に屋号を改め移転オープン。2012年、日本ドイツワイン協会連合会よりドイツワイン名誉ケナーを授与。TVやラジオなどメディア出演多数。日本ソムリエ協会認定アドバイザー。NHK文化センターワイン講座講師。

ワインを手に微笑む細谷さん

震災を機にワイン専門店をオープン

編集部:こんにちは。細谷さんはワインショップを営みながら、ワイン専門家としてTVやラジオに多数ご出演され、ワイン講座も多数受け持っていらっしゃいます。まずはお店を開いたきっかけをお聞かせください。

細谷さん:1995年の震災がきっかけです。もともと当店は、祖父が大正時代に創業した「細谷酒店」がはじまりです。酒屋があったのは芦屋市南部の打出駅の近くでしたが、震災で多くの建物が倒壊しました。当時、あたり一帯はなにもなくなってしまい大変でした。

その頃、父のもとで働いていたのですが、震災で店を移転することになり、父から「お前の良いようにしていい」と言われたんです。
その年に、あるフレンチ店で心の底から美味しいと思えるブルゴーニュワインに出会い「こんなワインを広めたい」と思うようになったこともあり、正式に店を継ぎ、今の阪神芦屋駅にワイン専門店として「ワインガーデン リブゴーシュ」をオープンしました。

編集部:以前から、お酒の中でもワインに魅力を感じておられたんですね。

細谷さん:ワインを学び始めたのは1988年頃ですね。当時20代でしたが、ワインに惹かれて、せっせと試飲会に足を運んでいました。でも学べば学ぶほど、自分のなかで沸々と疑問に思うことが多かったですね。ワイン評論家のロバート・パーカーをはじめ、多くのワインに関する著書を読んで学びました。
だから一般の方が「ワインって難しい」と思う気持ちがよくわかるんですよ。

「ワインガーデン リブゴーシュ」の外観

ワインショップ「ワインガーデン リブゴーシュ」(兵庫県芦屋市)。

ワインの美味しさをキープするため店内室温は24時間365日20℃設定

編集部:ワインの世界は奥が深そうです。

細谷さん:ワインは温度変化に影響を受けやすいんです。当店で扱っているワインなどは管理を怠ると一発で味が変化します。ワインが萎縮するというか、微妙に違う味わいになるんです。

だからリブゴーシュの店内は、365日24時間、エアコンを20℃に設定しています。こうやってまだ夏の暑さが残る9月でジャケットを着ているのも、恰好をつけているわけではなく、ただただ寒い店なんですよ(笑)。

編集部:冷蔵庫にワインを入れるのではなく部屋全体をその温度にしてるんですね。

細谷さん:ワインセラーは別にあって、そこでは15~16℃に設定しています。地下にあり長期熟成用ですね。通常販売するものは店頭においているので、店内の温度管理も大事なんです。

だからワインを仕入れる際も、道中の温度管理が大事になります。例えば輸入ワインなら、海を越えたワイナリーから、お客様のお手元に届くまで、いろんな人の手を介して入荷されるのですが、徹底した輸送管理が大事になってくるんです。

編集部:素人にはそこまでわからないです。

細谷さん:素人どころか、ちょっとしたワインの専門家でもわかりません。私は生産者と同じぐらい、インポーターを厳しい目でチェックして信頼できるところから入荷するようにしています。

「ワインガーデン リブゴーシュ」の内観

また当店では独自の定義を掲げて「ファインワイン」とし、それにかなう良いワインを取りそろえるようにしています。

■リブゴーシュが掲げる「ファインワイン」3つの定義

  • 高品位のぶどうと優れた生産者のもとで醸造されたワインであること
  • 誠実なインポーター(輸入者)により運ばれたものであること
  • 店舗での空調管理を徹底して行うこと

編集部:一般的に「ファインワイン」とは『最高の産地・最高の造り手が生み出したワインを熟成させたヴィンテージもの』という解釈をしていましたが、それとは別に独自に定義されているんですね。

細谷さん:そうですね。

美味しいワインに出会うには信頼のおける店選びが早道

編集部:消費者が美味しいワインに出会うためにはどうしたらいいでしょうか。

細谷さん:良いワインに出会うには購入店を選ぶことが大事です。ワイン選びは店選びですよ。さきほどお話した店側の管理体制も大事ですし、消費者側の購入するときのポイントもあります。例えばお客様の中には
「何がおすすめですか」
とだけ質問される方がいますが、それだとお店の方も絞り込めないと思うので、

  • 予算
  • シチュエーション

を具体的に伝えるのがベターですね。

例えば「予算3,000円でイカスミのパスタに合わせたワインがほしい」とかね。それで提案されたワインを購入して、飲んでみて「なるほど、美味しい」と感じたらその店は良い店です。続けて買う価値があると思います。

編集部:「何がいいですか」と聞いて、何の説明もなくワインを提示するような店だったら…?

細谷さん:お客様の情報を聞くこともなく、ワインを提示するようなお店はアウトです(苦笑)。ギフト用の場合でも、贈り物を受け取る方の情報が必要です。年齢や性別など情報をいただいてから、売り手は提案すべきだと思いますね。

オンライン取材を受ける細谷さん

編集部:お客様の中でも男性と女性で差があるんですか?

細谷さん:ありますね。一般論ですが、たとえば40代以上の男性なら重くて渋めのワインが良いと思ってらっしゃる方が多いですね。ボトルに記載している「重い・軽い・中位」と書いてあったら、重いワインが良いワインだと判断する人が多い傾向があります。

「一級シャトーだからいいんだ」とか、ラベルに書かれている情報や名称に惹かれて選んでいる方はたくさんいらっしゃいます。そんな自称・ワイン通の方々が「これが良いワインですよ」と紹介したら、ワイン初心者の方は「そうかな、そうですね」と素直に受け入れてしまいがちなんですよ。

一同:(大笑い)

編集部:ストレートで辛口なコメントありがとうございます!

“美味しい”の判断は自分の感覚を大切に

編集部:細谷さんのお話はわかりやすくて楽しいです。長年、受け持つワイン講座でも本音でお話なさるんでしょうか。

細谷さん:私はいつも本音しか話しませんので(笑)。
確かにワインには、誕生のストーリーや、どこで誰が作っているとか、そういうことも大事だけれど「これは美味しいな」と思う自分の素直な感覚が大事。
自分の舌が「美味しいかな?そうじゃないような気がする」と思っているのに、他人の情報に合わせにいってしまう状況が、ワインをますますわかりにくいものにしています。

そして最良のワインというのは「濃くて軽い」ということなんです。食事とあわせるのにワインが重いと食事が進まないでしょう。

ブルゴーニュワイン・イベントのディスプレイ

ブルゴーニュワイン・イベントのディスプレイ。

編集部:「濃くて軽い」という感覚がわからないです。どうしたらそういうワインに出会えるんでしょうね。

細谷さん:ワインのボトルを見て判断することはできないと思います。だからそれを予想できる信頼のおけるプロがいる店で購入することが早道ですね。それほど「濃くて軽いワイン」が市場に出回りにくい状況ということです。

さきほどご説明したように、たくさんの人の手を通ってくる中で、最上の輸送体制・保管体制の中で運ばれてくるワインがいかに少ないのかということです。

編集部:私たちがワインを選ぶ時に「濃くて軽い」という1つの目安をいただきましたがほかには?

細谷さん:そうですね、私がワインを表現するのに「??」と思うのは「飲みやすい」という言葉です。英語で飲みやすいとはどう表現しますか?

編集部:easy?

細谷さん:実は英語には日本語の「飲みやすい」に当てはまる表現はないんです。近いニュアンスなら、
「approachable(アプローチしやすい)」「familiar(よく知っている、親しい、心安い)」
などの語彙でしょうか。
「easy to drink」なんて表現したら、生産者にご立腹されますよ(笑)。私が察するに、みなさんが飲みやすいといっているのは、薄くて軽いワインのことだと思います。

エリオ・アルターレ氏と細谷さんのツーショット

イタリアワイン「バローロ」の神様と称えられる醸造家・エリオ・アルターレ氏とのツーショット。2007年3月「エリオ・アルターレのテイスティングセミナー」(大阪梅田)にて。

編集部:確かに私も「飲みやすい」ってよく使っています(苦笑)。薄くて軽いワインのことだったんですね。

編集部:細谷さんが万全の体制で保管するワインでも、香りや味に変化が起きることはあるんですか?

細谷さん:そうですね。良いワインでも月の満ち欠けによって香りが出にくい場合があるともいわれています。

編集部:深すぎてわかりません(笑)。

細谷さん:いや、ほとんどの方はわからないでしょう。ただ一般的には新月から満月に向かうときの方が良いと言われています。そのほかにも冷蔵庫から出してどのタイミングで飲むのかなど、いろんな要素がありますしね。

信州のワイナリーの風景

ワイナリーを訪れることも多い細谷さん。画像は信州のワイナリー。

編集部:細谷さんはどうやって知識を入手しているんですか?

細谷さん:日々、ワインに触れる機会を持つこと。数々の評論家が書いているものに目を通して、本当かどうか疑問の目を持ち続けること。ロバート・パーカーという世界的に有名なワイン評論家がいるのですが、その方が書いてる著書などは参考になると思います。要はワインを飲んで、自分がどう感じるかだけです。他人はどうでもいいんです(笑)。

編集部:自分が飲んでどう感じるかが大事なんですね。

細谷さん:そう、そのとおり!素直な気持ちがとにかく大事。日本人は世界で一番繊細な舌をもっているといわれています。ミシュランの星付きレストランの数は、日本が一番多いんです。だから味の違いはわかるはず。

編集部:飲んでみて美味しいか、美味しくないか…。

細谷さん:そう、それに尽きます。自分の感覚を信じることです。その時の自分の素直な気持ちを書き留めるなどはいいかもしれませんね。

グラスに入ったワインと2本のワインボトル

オンライン講座ではワインの飲み比べなども実施。事前にワインと資料を自宅に郵送してくれる。
マルゲ社の「2014年アイ・グラン・クリュ」(左)とヴーヴ・クリコ社の「2012年グランダム」(右)。

家庭でワインを飲む時のポイント

編集部:家庭でワインを美味しく飲むポイントなどあれば教えてください。

細谷さん:ワインを美味しく飲むためには、いろんなポイントがあります。例えばワインが宅急便で届いたら、1週間は休ませましょう。ワインセラーがベスト。15℃前後で保存するのがいいですね。ワインセラーは安い買い物ではないと思いますが、5万円ほどで家庭用の良いものが手に入ると思います。

赤ワインだったらもう少し高くて、飲み頃の温度は16~23℃がベスト。ボルドーなら少し高めがいいし、ブルゴーニュなら少し低めがいいですよ。

冷蔵庫を利用した場合は、出した時の温度は5℃ぐらいです。もちろん温度計を使ってもいいのですが、冷蔵庫から出して何分ぐらいが自分の好みの味になるのか知っておくのもいいでしょう。

編集部:まずは温度管理ですね。ほかには?

細谷さん:ワインはボトルのトップと底で味わいが違うんですよ。上澄みは捨てたほうがいいですね。

ジェスチャーで説明する細谷さん

編集部:逆さにしてふったらだめなんですか?

細谷さん:いいですよ。デキャンタ(※)を使うのもおすすめです。ワインの澱(オリ)を取り除くことができたり、空気に触れさせることで香りが豊かになり、味わいにふくらみを出させることができます。洗うのは手間だけどね。デキャンタも意味があることなんですよ。
※ワインを入れるガラス容器のこと

ボージョレ・ヌーヴォーの季節。ずばり2022年に飲んでみたい新酒は?

編集部:そろそろワインの新酒の季節ですが、今年のワインはいかがですか?

細谷さん:ボージョレ・ヌーヴォーに関していえば、航空運賃が高くなってしまってインポーターがどんどん手を引いている傾向がみられます。なかなか良いものが入りにくい年になりそうですね。でもおすすめはありますよ。

編集部:ぜひ庶民にも手の届くワインを教えてほしいです。

細谷さん:2つご紹介しましょう。

1つ目は「2022 ボージョレ・ル・ペレオン・ヌーヴォー(マドンヌ)」。
ノン・フィルターで瓶詰めされたピュアで洗練されたボージョレ・ヌーヴォーです。味わいはしっかりとしており、イチゴジャムに似た圧倒的な香りが印象的な1本です。1997年のファーストリリース以来、フランスのマスコミ各紙で絶賛されていて、マドンヌのヌーヴォーを知らずして「ボージョレ・ヌーヴォー」は語れません。

ボージョレヌーヴォ マドンヌのラベル

「2022 ボージョレ・ル・ペレオン・ヌーヴォー(マドンヌ)」
参考価格:3,850円(税込)
生産地:フランス,ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォーAOC
生産者:マドンヌ(ジャン・ベレール)
ぶどう品種:ガメイ100%

2つ目は「2022年ボージョレ・ヌーヴォー(ルー・デュモン)」。
ブルゴーニュで活躍している日本人醸造家・仲田晃司氏が造る秀逸なボージョレ・ヌーヴォーです。
リュット・レゾネ(減農薬栽培)でていねいに育てられた樹齢70〜95年の古木の区画から造られる濃厚なボージョレ・ヌーヴォーです。もちろんノンフィルターでの瓶詰め。

彼の畑は標高400mと比較的高いのでブドウの熟成がゆっくり進みますが、彼の信念のもと、さらにブドウ完熟のぎりぎりまで収穫を待ちます。リリース17年目の今年のヴィンテージは彼の経験に裏打ちされた最高の出来栄えになると期待されています。

ボージョレヌーヴォ ルー・デュモンのラベル

「2022 ボージョレ・ヌーヴォー(ルー・デュモン)」
参考価格:4,730円(税込)
生産地:フランス,ボージョレ・ヌーヴォーAOC
生産者:ルー・デュモン(仲田 晃司)
ぶどう品種:ガメイ100%

ボージョレ・ヌーヴォーの飲み方

ヌーヴォーは開栓したばかりの場合、ほとんどぶどうジュース状態です。時間が経つにつれて少しずつ味わいが出てくるのをお楽しみください。

【ポイント】

  • 室温が25℃以上であれば30分程度、冷蔵庫の野菜室で冷やしてから抜栓してください。
  • 1日で飲みきれない場合は、コルク栓をして冷蔵庫で保管を。
  • 翌日に飲む際は、1時間前には室温にならしてからお楽しみください。

編集部:5,000円以内でも美味しいおすすめワインがあるんですね。うれしいです。

細谷さん:ありますよ。ただ値段は正直なんでね。2,000円のワインが5,000円のワインに勝っているかという選び方でご紹介したわけではありません。値段と照らし合わせて満足度の高いワインをご紹介しました。ほかにもYouTube「ワインガーデン・リブゴーシュ」で随時ワインをご紹介していますので、ぜひご覧ください。

和歌山の名酒「車坂」の杜氏・藤田 晶子さんをご紹介します

編集部:では最後に細谷さんが次にご紹介したい方を教えてください。

細谷さん:日本酒「車坂」を醸造する和歌山の酒蔵・株式会社吉村秀雄商店で杜氏(とうじ)を務めていらっしゃる藤田 晶子さんです。料理研究家の方にご紹介いただいたのがきっかけです。

実際に和歌山の酒蔵にも行ってきたんですが豪快な方。しかし仕事は繊細で敬服します。蔵人の世界はかつて女人禁制でしたから、女性で杜氏といえばこれまでの苦労は聞かずともわかります。お酒の味わいも実に爽快なんですよ。

編集部:杜氏さんに取材するのは、リレーインタビューでは初めてです。お会いするのが楽しみになってきました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

まとめ

細谷さんは、NHK文化センターのワイン講座を20年以上務めるベテラン講師。語りはわかりやすく、“ここだけの話”が満載の本音トークで笑いの絶えない取材となりました。

ワイン専門店としては、自分が本当におすすめしたいワインを最上の状態で管理し、お客様に本音でアドバイスしていらっしゃいます。
「本物の極上のワインに出会った時はね、心底感動しますよ」との言葉が印象的でした。今後、“リブゴーシュ”が掲げるファインワインの地位を日本でぜひ確立してください。

NHK文化センター講座も10月から開講中!今からでも参加可能な教室もありますよ。気になる方はぜひ!

<インタビュー:峯林 晶子・杉谷 淳子、記事作成:杉谷 淳子>

<取材協力>

店名 ワインショップ「ワインガーデン リブゴーシュ」
住所 兵庫県芦屋市公光町4-18
阪神芦屋駅より徒歩1分
SNS Facebook(細谷志朗)
SNS Facebook(ワインガーデン・リブゴーシュ)
YouTube ワインガーデン・リブゴーシュ

<写真・動画提供>

細谷志朗
ワインガーデン・リブゴーシュ
※インタビュー風景を除く

▼続いてのリレーインタビュー記事はこちら

洋食にも負けない「山廃」を造りたい。世界も認める女性杜氏の挑戦【リレーインタビューVol.31】


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