バンの後ろに野菜を並べている角谷さんの写真

前回のRED U-35 spinoff「食のサステナブルAWARD」で金賞を受賞した料理人・神田 風太さんのご紹介。

今回、ご登場いただくのは京都の地野菜を“振り売り”スタイルで販売する「Gg’s(ジージーズ)」代表・角谷 香織さん。“振り売り”といえば、江戸時代なら天秤棒を担いで行商するスタイルを想像しますよね。畑とマーケットが近い京都では、今も農家がミニバンや軽トラックに野菜を積んで得意客を訪れる姿が珍しくないのだとか。

大学を卒業後、スタートした八百屋業。日々、畑に顔を出し、作り手である生産者のストーリーとともに、飲食店や一般家庭に野菜を届けています。そんな角谷さんにインタビュー!めざす「サステナブル」や大切にしていることをお聞きしました。
(取材:2021年5月26日)

座談会全体の様子

角谷 香織さん(下段)

<プロフィール>

角谷 香織(すみや かおり)さん
1988年、京都生まれ。京都の大学・大学院卒業後、2015年、農家と飲食店をつなぐ八百屋「Gg’s(ジージーズ)」を起業。 地元京都の農家の手伝いをする中で「振り売り」と呼ばれる伝統的な販売方法に興味を持ち移動販売をスタート。 日々京都の農家を回り、料理人や一般家庭に野菜を届けている。毎週日曜日に「晴れときどき雨、のちお野菜」で店頭販売も行う。「京都里山プロジェクト」のメンバー。

「畑は楽しい!」。SNSでの情報発信をきっかけに八百屋の道へ

クックビズ世古:はじめまして。今日はよろしくお願いいたします。

角谷さん:よろしくお願いします。

クックビズ世古:現在、京都の地野菜を販売する「Gg’s」を運営されていますが、今の道に進んだきっかけを教えてください。

角谷さん:農家さんと関わるようになったのは学生時代の時からです。京都に住む福島県出身のシンガーソングライターYammyさんのアシスタントをしていたことがあり、彼女の郷里に仕事で訪れました。

東日本大震災が少し落ち着いた頃です。そこで福島県の農家さんと関わる機会があったんです。

クックビズ世古:まだ風評被害なども続いていた頃ですよね。

角谷さん:福島県南部の農家さんたちなんですが、苦しい状況でもとても前向きで、その姿勢に「すごいなぁ」「素敵だなぁ」と感銘を受けました。それが縁で京都の農家さんともつながりができて、音楽イベントやマルシェの企画に携わるうちに自然とみなさんと仲良くなったんです。

クックビズ世古:大手IT企業の内定を辞退して今の道に…とも聞きましたが、生産者さんの想いを届けようと?

ミニバンにびっしりと積まれた野菜の写真

ミニバンに野菜を積み込んで野菜を“振り売り“する角谷さん。江戸時代なら天秤棒、一昔前ならリヤカー。ここで畑の情報を伝えたり、消費者の声をキャッチ。

角谷さん:何かに問題意識を感じて八百屋をめざそうと思ったわけではなかったんです。ただ魅力的な農家さんのことをみんなに知ってほしいとSNSで発信しているうちに、その投稿を見てくれた方から「うちにも野菜がほしい」「どうやったら買えますか」という問い合わせが増えていきました。ちょうどFacebookやInstagramなどのSNSが世の中に広まり始めた頃です。

それで依頼があった人に野菜を届けていたんですが、農家さんに「ちょっとずつ持って行くのも大変でしょう。お野菜を預けるので『振り売り』をしてみたら」という提案があって委託販売として始めることにしました。

クックビズ世古:『振り売り』のきっかけは、そういう理由だったんですね。販売したいというより、生産者さんの魅力を発信していたらビジネスになったと。

角谷さん:畑に行くことそのものが楽しかったんです。私は京都の町中で育ち、祖母も近所に住んでいたので“田舎”に憧れていました。

ですから畑で農家さんから野菜や栽培のお話を聞いたり、作業を手伝ったり、それをSNSで発信しているうちに需要が生まれて今のスタイルになりました。

心がけているのは、飲食店さんの目の代わりになって畑の情報をリアルタイムで伝えること

角谷さん:はじめは野菜のこともよくわからなかったんですが、料理人さんといっしょに畑に行くようになり、そのうちにメニュー考案に関わったり、店のテラス席で野菜を販売したりと仕事が広がっていきました。

クックビズ世古:個人農家さんとのお取引だと、ロットも少なく天候に左右されやすいのでは。経営で心がけていることは?

耳を触りながら少し思い浮かべるように話す角谷さんの写真

角谷さん:天候の影響は確かにあります。ただ畑の作物がゼロになるということはないので、今、畑で採れるものをリアルタイムで情報発信して、欲しい方に届けるということを一番に心がけています。

徐々に仕入れ先も増えて、今は約30軒の農家さんと取引しています。エリアも大原、上賀茂、伏見、太秦とさまざま。収穫できる作物も時期も違います。「この作物は採れなかったけど、こちらの農家さんでこんな野菜が採れてますよ」など、なるべく提案するようにしています。
取引する飲食店さんは、よくご注文いただく店で30~40軒でしょうか。

クックビズ世古:飲食店にとっては、まめな情報提供や代替案はうれしいですね。

角谷さん:ありがとうございます。注文したものが天候不順とはいえ、納品できないとなるとトラブルになります。日頃からコミュニケーションがとれていないと。だから個人の農家・飲食店の1対1のお取引は、お互い多忙なので難しいのかなと思います。

夏の京都・大原のズッキーニ畑の写真

京都・大原のズッキーニ畑(夏)。京都市内から車で30分でこの風景。

逆に飲食店さんにとっても、購入数が少ないのに忙しい農家さんに配達してもらうのは気が引ける方もおられます。うちに依頼してもらうことで、複数の農家さんが栽培されている地元の野菜をまとめてお届けできるので、料理人の方々にとっても頼んでもらいやすいのだと思います。

クックビズ世古:角谷さんが農家・飲食店双方のコミュニケーションをとって動いてくれることがメリットなんですね。

角谷さん:「Gg’s」は「大手の卸売や八百屋みたいに何でもありますよ」とはいえないんですけど、程よい規模感を大事にしながら個人の農家さんと飲食店さんをつないでいきたいと思っています。

クックビズ世古:大手だと、なすび数本の注文だけなど受けてくれないでしょうし。そういった部分が上手くフィットしているんでしょうね。

農家さんが畑で作業してる様子を見る人の写真

料理人やお得意先をアテンドして畑を訪れることも多い角谷さん。

「タケノコがない!」今思い出しても青ざめる苦い経験

クックビズ世古:このお仕事で悩みや大変なことは何ですか。

角谷さん:月ごとのメニューに合わせて野菜を納品しなくてはいけない時が一番大変です。以前、ある飲食店が4月1日から月末まで「タケノコ」をメインにしたメニューを組み、ご注文をいただいたんです。

そしたら私が仕入れようと思っていた農家さんの竹林が、その年は裏作(※)で全然数量が採れない事がわかり、青ざめた経験があります。3月末になってもアテがなく、いろんな方に「タケノコ農家さんを紹介してください」と聞いて回りました。
(※=裏年ともいい、タケノコは一年おきに、豊作と不作を繰り返す)

京都・洛西地区塚原のタケノコ農家さんがタケノコを並べている写真

角谷さんの窮地を救った京都・洛西地区塚原のタケノコ。

クックビズ世古:エーッ!どうされたんですか?

角谷さん:で、見つかったんですよ。京都・塚原の農家さんで、しかもタケノコ栽培に情熱を注いでいる方。信頼している農家さんから繋いでもらい、もちろんとっても良いタケノコを育てておられました。その方にたどりついたときは、ホッとしましたね。

クックビズ世古:タケノコって春を代表する山菜ですし、メインの食材がなければ打つ手もないですし。

角谷さん:そこそこ大きな規模の飲食店さんだったので、入手できなかったら多くの方に迷惑をかけるし「どうしよう~」と毎日病んでいました(笑)。

お皿に乗ったそらまめの写真

エンドウマメと同じく収穫時期が短い「そらまめ」。

クックビズ世古:見つかって良かったですね。

角谷さん:はい。メニューは1ヶ月毎でも、畑のタイミングは1ヶ月毎というわけではないので、そこを調整するのが難しいんです。特に京都は夏と冬は同じものが長く採れますが、春秋は気候がどんどん変化していくので収穫できる野菜もめまぐるしく変わります。

クックビズ世古:提案するのも一苦労ですね。

角谷さん:飲食店さんは「旬のもの」をメニューに加えたいと考えますが、旬が短いものも多いです。例えばエンドウマメも冬になる前に植え、収穫できるのは春から初夏のほんの2週間程度です。そのタイミングでしか採れないけどすごく美味しいんですよね。

だからメニューのご相談にのる際は、正直にお伝えしたうえでメニューに幅をもたせてもらうなどの工夫をお伝えするようにしています。

旬の野菜を使った野菜のソテーの写真

私にとってサステナブルとは

クックビズ世古:角谷さんは、神田さんと一緒に「京都里山プロジェクト」のメンバーとしても活動されています。今年3月に「食のサステナブルAWARD」で金賞も受賞されていますよね。角谷さんがサステナブルを意識するようになったのはいつ頃からですか。

角谷さん:私は「畑にあるものを地域でおいしく食べつくせたらいいな」「それをどう地域で循環していけばよいかな」と考えていたら、それが今の言葉でいう“サステナブル”に重なったという感じです。

それを意識していたわけではなかった。大きな流通ではなく、こんなに近くにあるおいしい野菜を周りの人にも知ってもらい食べてほしいという気持ちからです。

フードロスの問題にしても、農家さんが知り合いだったら、なるべく全部食べようと思うし、野菜を作っておられる方へのリスペクトや感謝の心も生まれます。

クックビズ世古:「サステナブル」という言葉があって、それにひっぱられたのではなくて、角谷さんが大事にしてたことがサステナブルだったんですね。そういえば神田さんも同じようなコメントをしていました。

袋に入ったスク氏の頭部分を手ですくっている写真

春を代表する身近な山菜・つくし。角谷さんのお取引先の中には、野草・山菜ハンターの方も。

角谷さん:昔は、どんな環境で、どんな農家さんが作っているのかわかって食べていたと思うし、それが当たり前でした。身近に感じることができると「食」への姿勢も変わると感じています。

確かに大きな流通というものは大事です。全国からいろんな食材が集まって、市場を通して大都市、地方と各地でほしい人に大量の食材が流通していくシステムは、日本全体の食を支えるものとして確かにすごいと思う。しかしその仕組みの中では、「食」の原点を身近に感じることが難しくなっているんじゃないかなと。

私自身がそうだったのですが、野菜がどうやってできるのか知らずに、料理だけが食卓に上る日常だと、「便利だから」という理由で悪気なく環境に負荷をかけていることもあると思います。だからこそ環境のことを考えるなら、自然に触れる機会が大事なんだと思いますね。

ぬくもりを感じる規模感で長く継続して取り組みたい

クックビズ世古:なるほど。ではこれから角谷さんは「京都里山プロジェクト」にどう関わっていくんでしょうか。

角谷さん:このプロジェクトは、「京都のまちなかにレストランを持つ料理人たちが里山に入り、ありのままの自然と向き合う」ということがテーマになっています。私としては畑や山に毎日通えない料理人さんの代わりに、面白い食材を探して伝えていきたいと思っています。

プロの料理人だからこそ、一般家庭では扱いが難しい食材を使っておいしくできるものってあると思うんです。私の役割は料理人さんの目になること。畑で見える景色とともに野菜を届けたいです。

腰の曲がった体制で手にからし水菜を持った農家の徳岡さんの写真

個人農家・徳岡さんの畑で採れる「からし水菜」は絶品。

クックビズ世古:角谷さんのような活動がしたいという方にアドバイスするとしたら?

角谷さん:私はたまたまご縁があって始めて、今も日々模索しているところなのですが、そうですね、まずは気にかけることからではないでしょうか。大雨が降った時に「あそこの農家さんの畑は大丈夫だったかな」とか。ゆるくても、いろんなものがつながっていることを感じればいいなと思います。

クックビズ世古:時には強いこだわりを持っている方もいると思います。周囲を巻き込むうえで心がけていることは何でしょう。

角谷さん:「規模感」です。私は組織や活動が大きくなれば良いとは思っていなくて、それぞれの土地に適した規模、合うスタイルがあると思っています。
人間も自然の一部だし、そういう温もりを肌で感じる規模感は大切にしたいなと思っています。

赤や緑いろのトマトのアップの写真

クックビズ世古:なるほど。

角谷さん:流通も大きくすると、私のようなやり方は効率が悪くて続けるのが難しいかもしれません。
でも、だからこそ共有できるこだわりもあると思いますし、大きな流通は大きな流通なりのこだわりや利点があると思います。
それぞれが、活動する地域に合った規模やスタイルを見つけていくといいのではないでしょうか。

もちろん山の管理みたいに、多くの人手が必要なプロジェクトには京都府外からも協力を募った方がいい場面もあると思います。

クックビズ世古:「Gg’s」としての今後は?

角谷さん:何よりも継続していくこと。私は、地元の野菜を地元の人に食べてほしいと思っているので、農家さんと料理人さん、そして一般のご家庭と信頼関係を築きながら長く続けていきたいと思います。

ホテル「THE THOUSAND KYOTO」 の宮下料理長を紹介します

クックビズ世古:では最後に紹介したいと思う方を教えてください。

角谷さん:ホテル「THE THOUSAND KYOTO」の日本料理「KIZAHASHI」でカウンター専属料理長を務めておられる宮下 司さんです。食材ありきで料理を組み立てていく力はすごいと尊敬しています。

クックビズ世古:「京都里山プロジェクト」にも参加していらっしゃる方ですね。お話をお聞きするのが楽しみです。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

まとめ

生まれ育った京都という街で、自分らしいスタイルで畑と飲食店をつなぐ角谷さん。

取材の中で「意識してサステナブルな行動をしたわけではなかった」「畑に行くことそのものが楽しかった」という角谷さんの素直な言葉そのものが印象的でした。

今、国際的にサステナブルという言葉がフォーカスされていますが、“環境を守る”ことに関連していえば、これまでにもロハス、エコロジー、省エネ…などがありました。時代と共に呼び名がどんどん変わるけれど、根っこはすべて同じだと感じた今回のインタビュー。

「毎日食べているものが、どこから来てるのかな?」と想像するだけで何か変わるような気がします。都心にいて畑を身近に感じる取り組みが日本のあちこちで生まれるといいなと感じました。

<インタビュー:世古 健太・方城 友子、記事作成:杉谷 淳子>

<Gg’s(ジージーズ)>

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「Gg’s」
※インタビュー風景を除く