前回の<コロナ禍に独立を決めた!31歳、日本料理の料理人が自分の店をオープンする瞬間【リレーインタビューVol.3】>の酒井 研野さんからのご紹介です。
「サステナブル」×「里山」
この2つを結びつけ、実践する料理人がいます。京都・祇園でジビエ料理を提供する飲食店「Gibier MIYAMA」を経営する神田 風太さんは、美山の山を愛する料理人。
2019年、新時代の若き才能を発掘する料理人コンペティション「RED U-35」でBRONZE EGGを受賞し、2021年、「RED U-35」のスピンオフとして開催されたRED U-35 spinoff「食のサステナブルAWARD」では「京都里山プロジェクト」にて、“SEEDS 10” サステナブル金賞を受賞。
SDGsやサステナブルが飲食業界でも注目され、コロナ禍にあってその意義がますます問われている今、若き料理人が「サステナブル」をどうとらえ、実際にどのような取り組みを行っているか、インタビューしました。
神田さんが「ぜひ知ってほしい」という人物も最後にご紹介します。
<プロフィール>
■神田 風太(かんだ ふうた)さん
1989年生まれ。京都府南丹市美山町生まれ。主に京都・祇園にて調理経験を積み、2018年、北山に「Ristorante miyama162」を創業。2019年、料理人コンペティション「RED U-35」でBRONZE EGG受賞。得意分野であるジビエ料理を中心に2020年より祇園にて「Gibier MIYAMA」を開業。2021年、RED U-35 spinoff「食のサステナブルAWARD」で金賞受賞。
目次
グルメな花街の姐さんたちに認められたい!が始まり
クックビズ世古:神田さんが料理人の道に入ったきっかけは?
神田さん:学生の頃は野球をやっていて、10代は海外を転々としたりもしていたんですが、18歳のときに飲食店のアルバイトで調理補助をしたのが、初めての経験です。
本格的に料理を始めたのは22歳のとき。祇園のワインバーで働いたんですが、そこのオーナーが、「おしろい屋さん」といって、芸子さんの白塗りのお化粧をする仕事をしていて、その関係で店のお客様は、花街の方が多かったんです。みなさん宴会終わりにご飯を食べにくるっていう店でした。
花街の方は、いろんな飲食店や美味しいものを知っていて、舌が肥えています。そんな舌の肥えたお姐さんたちに育てていただいたというか。お姐さん方に認めてほしくて頑張っていました。
クックビズ世古:それが料理の世界に進むきっかけだったと。
神田さん:そうですね。あと、僕は京都の美山町という、すごく田舎の出身なんです。僕らがやっている「京都里山プロジェクト」(※後述)の舞台でもあるんですが、美山町は猟師が多くて、ジビエを出す飲食店もたくさんあります。
僕自身も子供のころから猟で獲られたシカやイノシシを食べるのが当たり前の環境でした。今になって思えば、とても豊かな食生活の中で育ってきたんだなと思います。そういう影響もあったのかなと。
究極の猟師から、“食材”を学ぶ
クックビズ世古:料理の世界で影響を受けた方はいますか?
神田さん:地元の猟師さんたちの影響を何より受けたと思います。特に一緒に仕事をしていた猟師の藤原さんです。
藤原さんは猟師をやりながら、農業もやって、自分の家も建てたりして大工もやるという方。僕はもう“究極の人”だと思います。
もともとはただの近所のおっちゃんだったんです(笑)。でも知れば知るほど奥行きのある方で、藤原さんから学ぶことがたくさんありました。
藤原さんいわく、「自分は日本で一番シカやイノシシを食べている」と(笑)。たとえば、一般的にはジビエって冬のイメージが強いんですが、夏は雄ジカが美味しかったりするんです。
この時期のシカ肉ってこんなに美味しいんだとか、藤原さんと仕事をしていて教わったことが沢山ありますね。
クックビズ世古:ジビエって、獣肉の扱い方は難しくはないのですか?
神田さん:最初は獲れたシカやイノシシの肉を食材としてどう扱っていいのか分からなかったですね。
考え方は、天然のお魚と一緒なんです。どこで育って、何を食べているかで味が変わる。さばき方、血抜きの仕方によっても味が変わってきます。
でも理解するのにやっぱり10年はかかりましたよ。一緒に仕事して10年です。藤原さんとも今ようやく、ちゃんと会話ができるようになってきたかなと思います。
クックビズ世古:猟師の藤原さんとのかかわりが神田さんに大きな影響を与えてるんですね。
神田さん:そこが一番大きいですね。いろいろ教えてもらいながら実際に一緒に肉を解体して、料理もしていくんです。
解体をしながら、「これはこう」「あれはこう」とひとつずつ、全部教わりました。
ジビエもいい肉ばかりでもないんですよ。解体して、すごく美味しい肉もあるけれども、赤みの強い部分もある。じゃあそこをどうやってムダなく調理していくかが料理人としての仕事です。
クックビズ世古:藤原さんは神田さんのお店に来たりは?
神田さん:あります。年に何回かは一升瓶を持ってきて、一緒に飲んでいます(笑)。
やりたかったのは“おばあちゃんの山仕事”
クックビズ世古:神田さんが参加している「京都里山プロジェクト」が「食のサステナブルAWARD」で金賞を受賞しました。神田さんが、最初にサステナブルに関心を持ったのはいつですか?
神田さん:あまりメディア向きではない答えかもしれませんが、生まれた時からですね(笑)。僕は田舎で生まれ育っていて、田舎の暮らしというのは基本的にサステナブルなんですよ。
クックビズ世古:なるほど。
神田さん:田舎の暮らしって、身の回りに実るものを採って調理して食べる暮らしです。もうすでに、その食文化のあり方が、サステナブルなんだと僕は思います。
田舎のおばあちゃんの山仕事には1年間を通したサイクルというのがあります。たとえば、今の時期だと山椒の実を採って保存する作業をします。
蕨(わらび)は、乾燥させて干し蕨にして、それも1年分を作るんです。もうすぐしたら梅の時期ですから、梅干しを作ったり。
そういう「この時期はこれ」という田舎のサイクルがあります。
去年コロナの影響で店を営業できない時期があったんですね。その時にスタッフ全員を山に連れていきました。
あのおばあちゃんの山仕事を僕たちもしようぜって。ちょうど1年間、実際にスタッフみんなで山仕事をやりました。
クックビズ世古:なるほど。里山では、季節ごとに実るものを使って、その年にずっと食べられるように加工・保存する作業があるんですね。
神田さん:そうなんです。僕はずっとそれをやってきていて、そこに周りの仲間たちがすごく賛同してくれて輪が広がってできたのが「京都里山プロジェクト」ですね。
「食のサステナブルAWARD」金賞受賞プロジェクトは、今こう動いている
クックビズ世古:「京都里山プロジェクト」のメンバーは何人いるんですか?
神田さん:メンバーは料理人3人(神田さん、宮下 司さん、酒井 研野さん)と、企画制作担当のライターの木薮 愛さん、野菜の振り売りをやっている角谷 香織さんという5人で立ち上げました。
目的としては美山にひとつの山があるんですが、その山を借りて、先ほどお話したような田舎の山仕事をみんなで年間を通してやっていこうと。
山で野菜などを育てて、管理をして、商品にして、レストランでお客様に提供していくっていうのが主な目的です。
クックビズ世古:今回の「食のサステナブルAWARD」のプレゼン動画で、「山を借りた」と神田さんがおっしゃっていました。「山を借りる」という言葉がさらっと出てきてビックリしました(笑)。
神田さん:確かに山を借りているレストラン、あんまりないですよね(笑)。でもこの山ね、蕨(わらび)も生えるし、朴葉(ほおば)も生えるし、こごみも生えるし、僕からしたら「宝の山」なんです。
ロケーションもすごくキレイで、この山を見つけたとき「すごいな」と。ここを借りて事業をしたいなと思いました。
クックビズ世古:その山で今は何を?
神田さん:借りた山は、これまでまったくの手付かずだったんで、荒れ放題です。プロジェクトは5年の計画ですが、まず最初の1年は山を整備していきます。先ほどお話したような田舎の山仕事をみんなで年間を通してやっていこうと。
それと、自分たちが必要とする木を植えたいと思っています。京都の料理人は山椒をたくさん使うので、山椒の木を山一面に植えたいですね。
猟師さんの手も借りながら山の環境を整えていこうと思っています。
クックビズ世古:山の整備を、5人で行うのは大変ではないですか?
神田さん:ありがたいことに賛同してくれる方が増えて、今は20人くらいになりました。行政のチカラを借りたりもしていますが、一番チカラを借りなければいけないのは、やっぱり美山の人たち。大切なのは地元の人たちとのつながりだと思っています。
僕たちが山に通うことによって、地元の人たちとつながって、考えに賛同してくれる方が増えていくと思うんで、そこを大事にしていきたいです。
クックビズ世古:プロジェクトを立ち上げるにあたって苦労したことは?
神田さん:これからだと思います。山仕事って体力がいるんです。田舎の人の体力ってほんとにすごいんですよ。どんなにジムで体を鍛えていてもかなわない。
あと農業は天候にも左右されます。今年の始めも寒波が来て、「野菜が全部凍っちゃってだめになっちゃった」と農家さんは当たり前のように話してくれるんですが、本来なら大変な出来事なわけです。
でもそんな会話から「じゃあ凍った大根をどうしようか」という話が出てくる。僕ら料理人はアイデアを出し、新しい料理を考えていきます。いろんなヒントがたくさんあるんです。
飲食店にとっての「サステナブル」とは、生産者ファーストであること
クックビズ世古:神田さんにとって、サステナブルとはずばり何でしょうか。
神田さん:仲間からも「風太の店はそもそもサステナブルだよね」とよく言われるんですが、僕はサステナブルを意識しているわけではなくて、サステナブルって要は、生産者ファーストなんじゃないかと思います。
農家さんが野菜など農作物を作ると「歩留まり(ぶどまり)」してきます。つまり、生産した量と売れる量の差が出てくる。たとえば、傷があったり、育ちすぎたりしていたら、味に問題はなくても、通常は市場に出ないんです。
それをうちの店では全部買い取ります。で、店で全部加工して使うんです。
たとえば肉でも、味のいいロースばかりをもらうのではなくて、前足、後ろ足、もも肉といった「歩留まり」する部分を全部もらって、ちゃんと使う。
味はすごく美味しくても、傷がついたトマトを農家は出荷しないという現状があります。でもそのトマトをうちは全部引き取りますと。
「ムダなく使う」というのが、うちの店の基本的なテーマです。
クックビズ世古:農家さんは、神田さんのそのような取り組みはどのように見ているんでしょう?
神田さん:僕は、「助け合い」だと思っています。野菜は自然のものだから都合よくは育ってくれないこともある。そんな時でもきちんと野菜を引きとって、「困ったときはお互い助け合おうな」と言い合える、助け合える関係性を築いていきたいです。
料理人や飲食店はそういう関係性を築くために、いわゆるB品というものを引き取ることが必要だと僕は考えているし、その関係を保つためにできることがあると思います。
クックビズ世古:誠実に対応することが、何より生産者ファーストなんですね。
「サステナブル」って、個人的には何をすればいいの?
クックビズ世古:神田さんたちの取り組みのように「サステナブル」は、飲食業界で働く人の実際の仕事、業界の将来にとって、非常に重要な指針になると思います。
ふだん忙しい料理人が、日常や仕事の中でどう実践していけば、サステナブルにつながっていくと思いますか?
神田さん:山に行ったらいいと思います。
なぜこれほどにサステナブルが取り上げられるかって、まず世界的な規模での環境問題だからです。「食のサステナブルAWARD」のアフターミーティングで小山 薫堂さん(作家・京都造形芸術大学副学長)がおっしゃっていたんですが、「サステナブルって自然との共存だよね」と。まさにその通りです。
豊かな自然環境を守っていくためには、自然の声を聞きながら生活をすることが大切です。そのために、山に入ってみてはどうでしょう。
クックビズ世古:まず「山に行け」と。
神田さん:僕も週に何度か山に行っています。山の空気を吸うだけで、感じるものがありますよ。
クックビズ世古:飲食業界の人は、忙しいというのがあって、季節感を感じにくい、そういう話も聞きます。
神田さん:逆にコロナ禍だからこそ、できるんじゃないかなとも思うんです。
ずっと職場と家の往復だった料理人が、コロナ禍でライフスタイルが一変してしまいました。「あれ?こんなに1日って長かったっけ?」というくらいに時間ができて、その時間をどう使うかです。
これまでにない考えを持って行動をしてみれば、視野は広がるはずです。
「最期にもう一度食べたいなあ」と言ってもらいたい
クックビズ世古:料理人として、神田さんの夢や目標を教えてください。
神田さん:僕自身は記憶に残るような料理をつくりたいと思っていて。うちの店のお客様は年配の方が多いんですけれども、たとえば山菜を出すと「懐かしい味がする」とみなさん言ってくださるんですね。
その記憶に残るような味というのをどんどんお客様に提供していきたいなというのが夢のひとつです。
「死ぬ前にもう一度あの料理が食べたい」と言ってくれる人を何人作れるか。美味しい料理を作る人はごまんといると思うんですが、「この人は何を食べたいかな」というのを汲み取れる料理人でいたいです。
たまに僕の思惑とお客様の想いがぴったり一致するときがあって、その瞬間を知ってしまうと、「あ。この仕事辞められへんわ」と思います(笑)。
飲食店と農家さんをつなぐ「振り売り」角谷 香織さん
クックビズ世古:神田さんがぜひ紹介したいと思う方を教えてくださいますか。
神田さん:同じ「京都里山プロジェクト」のメンバーで、Gg’s(ジージーズ)代表・角谷 香織(すみや かおり)さんです。
角谷さんは、主に大原、上賀茂の農家さんから直接野菜を集めて、レストランなどの飲食店におろすという移動販売型の八百屋さんをされています。
いわゆる「振り売り」という仕事です。角谷さんが農家さんから集めた野菜は、うちのレストランでも使っていますし、若い世代の料理人たちも使っているお店は多いです。
クックビズ世古:他の業者さんと何が違うんですか?
神田さん:角谷さんの「振り売り」のいいところは多品目が集まるところです。それこそ農家さんと料理人をつなぐ懸け橋になってくれる存在です。
それだけでなく、料理人同志をつなぐ懸け橋でもあって、いろんな方の間をつなぐ存在。僕の前にインタビューを受けた酒井 研野くんとは、お互い「RED」(RED U-35)に出ていたので見知っていたんですが、角谷さんが開いた山野草(さんやそう)の勉強会で紹介されて話すようになったんです。
クックビズ世古:なるほど。角谷さんは、人と人をつなぐハブ的な役割をお持ちなんですね。
神田さん:角谷さんは、畑や農家さんの状況を教えてくれるだけでなく、店の好みに合わせて野菜を提案してくれるんですよ。それができるのは、角谷さんが普段からいろんな店に行って、そこの味を知っているからできることです。
たとえば、「風太君、この春菊ちょっとトウ立ちしちゃってるんだけど、何かに使えるかな?」「ジェノベーセにしたら変わるかな?」と、そういう提案もしてくれます。
僕らにとっては、かなり重要なポジションにいる人です。
クックビズ世古:分かりました。角谷さんにお会いできるのが楽しみです!本日はありがとうございました。
まとめ
里山の暮らしには確かに“サイクル”があって、「春にはこの山菜を」「夏にはこの野菜を」と特に厳しい冬を越すために、伝統的な知恵を生かした「山仕事」がたくさんあります。
それらはとても合理的かつ、ていねいに繰り返されていて、作られた保存食や料理が美味しくヘルシーであることからも、昨今は「食文化」としてその魅力が再認識されています。
5年後、「京都里山プロジェクト」の山がどう変化を遂げているのか。それは私たちの社会が5年後、どれだけ豊かさを失わずにいられるか、そう問うのと同じ“解”なのではないか、そんな気がしています。
<インタビュー:世古 健太・方城 友子、記事作成:峯林 晶子>
<取材協力>
店名 | Gibier MIYAMA |
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プロジェクト | 「食のサステナブルAWARD」 Team 京都里山プロジェクト |
<写真提供>
神田 風太さん
※インタビュー風景を除く
▼続いてのリレーインタビュー記事はこちら
野菜の“振り売り”で農家と飲食店をつなぐ角谷 香織さん。ゆるく優しいつながりが地域の循環をはぐくむ【リレーインタビューVol.9】