たくさんのお花を生ける小森さんの写真

前回のフレンチ店「Recette(ルセット)」のスーシェフ・森下さんからのご紹介
フラワーデザイナー・小森 美樹さんが今日の主役です。神戸のメインストリートの1つ、フラワーロードに面した一等地にあるフラワーショップ「Jardin Clair(ジャルダン・クレール)」代表として多方面で活躍中。
もともとは日本料理店の調理師という異色の経歴の持ち主です。
「料理との世界は、一見違うようで、実はとても似ている」と話す小森さんに話をうかがいました。

<プロフィール>
■小森 美樹(こもり みき)さん
株式会社ジャルダンクレール取締役、flower shop Jardin Clair代表、flower design school Jardin Clair主宰
京都生まれ。短大卒業後、日本料理「花外楼」や「大乃や」で料理人として活躍。
その後、百貨店内の花屋でアルバイトとして勤務。「フラワーオフィスgoro」などを経て、2010年2月、神戸市にフラワーショップ 「Jardin Clair (ジャルダン・クレール)」 を オープン。その後、2014年6月に株式会社ジャルダンクレール設立。
厚生労働省認定フラワー装飾1級技能士、厚生労働省認定フラワー装飾科職業訓練指導員、(社)フラワーデザイナー協会講師のほか、調理師の免許も取得。

料理人から転身。アルバイトからスタートして花の世界へ

クックビズ世古:今回ご登場いただくのはフラワーデザイナー・小森 美樹さんです。

小森さん:今日はよろしくお願いします。

クックビズ世古:早速ですが、小森さんがお花の業界に入った経緯をお聞かせください。

フラワーショップ「Jardin Clair(ジャルダン・クレール)」の店内の写真

神戸・三宮から徒歩5分。フラワーショップ「Jardin Clair(ジャルダン・クレール)」。
日常使いのお花はもちろん、花束、贈物、ブライダルや店内ディスプレイの装飾まで幅広く対応しています。

小森さん:実は私は、最初、日本料理人をめざしていたんですよ。包丁を手に調理の仕事をしていました。

クックビズ世古:えっ?そうなんですか。

小森さん:1年目はホールの仕事をして、2年目から厨房にいたんです。でも体調を崩してやむなく断念。何をしたいということもなく、考えあぐねていた時に百貨店の花屋のアルバイト募集をみつけて、売り子として花の業界に入りました。

本格的にお花について学んだのは、そのあと転職した2軒目の花屋からです。そこから花の魅力に引き寄せられました。その店では、スクールも手広くしていたので基礎から学び、厚生労働省が認定するフラワー装飾1級技能士などを取得したんです。

夏や秋を連想させる、季節を感じる店内ディスプレイの例の写真

季節を感じる店内ディスプレイ。同じ店舗でも印象が変わります。

クックビズ世古:独立したのはそれからですか?

小森さん:「Jardin Clair」の前のお店では店長をさせていただいてたんですが、オーナーから店を閉めるという話があり、その場所を引き継いで独立することになったんです。

「最初から花が大好きで仕事にしたかった」というわけではなかったのに店まで持つことになるなんて。でもありがたいことにお客様に恵まれましたので、その方々と離れるのも名残惜しくて。で、がんばることにしました。

花は引き立て役。飲食店でのディスプレイは特に気を配ります

クックビズ世古:「Recette(ルセット)」の森下さんからも、小森さんが生ける花の評判は聞いています。ホテルや飲食店、さまざまな業態からお花のディスプレイの依頼がくるそうですね。

小森さん:おかげさまでお花の生け込みやメンテナンスなど外回りの仕事も多いですね。飲食店さんなら、開店祝い、周年祝い、ほかにもお客様からリクエストされた記念日などの花束、アレンジメントなどをお作りしてお届けすることもあります。

クックビズ世古:大きなディスプレイの依頼もあるのでは?手がけた作品で一番大きいものは?

小森さん:車販売店のクリスマスツリーですね。高さ5mほどあり、そういう時は男手を借ります。

車販売店のクリスマスツリーの写真

クックビズ世古:確かにそれは女性一人では大変そうですね。生け込みで心がけていることはありますか?

小森さん:各お店のコンセプトを大切にしています。必ず店舗にお伺いし雰囲気を確認しながら「どう見せたいのか」をクライアント様とお打合せします。

クックビズ世古:お花のことをよく知らないと「優雅にしてほしい」など漠然としたオーダーしかできない気がします。

小森さん:そうですね。クライアント様からは「ここにお花を置きたいんです」というシンプルな依頼も多いですよ。

私はお店の雰囲気に添うように「高級感のある仕上がりにしましょうか」「ナチュラルなイメージですっきり仕上げますね」など意向を汲み取りながらこちらからどんどん提案していきます。

クックビズ世古:なるほど、それなら安心です。飲食店での装飾やディスプレイの場合、特に気を付けるポイントはあるんですか?

小森さん:まず香りですね。やはり飲食店は、おいしそうな匂いも重要な要素。ワインなど香りを楽しむものもあります。だから香りが強すぎない品種を選びます。

あとは座席とディスプレイの位置を考慮し、花びらや花粉がテーブルや座席に落ちないように配慮します。

生け込みをする小森さんの後ろ姿の写真

クックビズ世古:お花は遠くにあっても香りますよね。

小森さん:そうなんです。特に店内は屋外と違い香りがこもります。あくまでもお花はお店の引き立て役。主張しすぎないことが大事だと考えています。

生け込むときは、テーブルやイスの高さからどう見えるのか、ライティングなども加味し、お客様の目線に立ってチェックすることは欠かせません。

器の中でデザインする料理とお花の世界は似ています

クックビズ世古:森下さんは、「小森さんが生ける花は、盛り付けのアイデアやヒントになる」とおっしゃっていました。料理とお花は通じるものがあるんでしょうか?

小森さん:それは大いにありますね。季節に合わせて素材を選び、色を合わせ、盛り付けする…。

日本料理で出される八寸(はっすん)などは、色彩、立体感ともデザインの要素がありますよね。お皿の中で比率を考え、全方位で美しくみえるように配慮します。どちらも器の中で四季を取り入れデザインする…。盛り付けと生け込みは似ていますね。

クックビズ世古:しかし料理人の方は、料理で季節を演出する側なのに、忙しくなると自宅とお店の往復になり、四季の変化に対して鈍くなりがち…と聞いたこともあります。

黒色の陶器の数種類の黄色の花が生けられている写真

小森さん:店内にいることが多いのでそうなりますよね(笑)。

それに食材もそうなんですが、花業界も季節を先取りするんですよ。たとえば桜は3~4月が花の時期ですが、業界では今(1月)すでに花材としてたくさん出回っていますからね。本来の季節感がわかりにくくなってきますよね。

あと食材となる野菜が、花材として出てるものもあります。

クックビズ世古:たとえば?

小森さん:カリブロ(=ロマネスコ)なんかそうですね。ブロッコリーの小さいのがいっぱいくっついた形状ものです。菜の花などもいい例ですね。

店舗によっては、食材として出しているものを、お花の生け込みには使わないでほしいという依頼もあるので、やはり最初の打ち合わせや、日頃からクライアント様と会話し、情報を得ることを大切にしています。

店内で生け込みをする小森さんの写真

クックビズ世古:森下さんによると、お客様からお花の名前など尋ねられることも多いようですよ。「花の勉強もしておかないと」っておっしゃっていました。

小森さん:以前勤務していた花屋さんでは、生け花教室などもやっていたのですが、料理人の方もいらっしゃってましたね。生け花やフラワーアレンジメントを通じて、料理の盛り付けの感性を磨いたり、レイアウトの仕方を学んだり。そういった料理人さんは結構いらっしゃるようです。

将来は、お花のスクール講師をしたいですね

クックビズ世古:逆に料理から刺激をうけることはありますか?

小森さん:独創性かな?お花も料理も、独創性を磨いて新しいものを生み出していく世界です。でもそれはやっぱり基本があってこそ。料理にも基本があるようにお花にも基本があるので。だから私は、今後の夢として花をメインに教えていきたいと考えています。

冬や春を連想させる、季節を感じる店内ディスプレイの例の写真

コーナーの壁には、花や葉の繊細な陰影が映し出されて、さらなる魅力が生まれています。

クックビズ世古:そうなんですね。

小森さん:それに花屋の仕事は、意外に重労働なんですよ。憧れだけでこの業界に入ってくると長続きしないです。ゆくゆくは生け花、アレンジメントなど、若い世代にどんどん花の魅力を伝えていきたいですね。

フレンチ割烹「新月」の横山 美妃さんを紹介します

クックビズ世古:さて、では小森さんがご紹介したい方を教えていただけるでしょうか。

小森さん:神戸ハンター坂にあるフレンチ割烹「新月」の横山 美妃さんです。私も元は飲食店で勤務していた経験があるので、その厳しい世界で頑張っている女性を紹介したくて。

クックビズ世古:どういったつながりなんでしょうか。

小森さん:いま「新月」さんでお花を生け込みさせて頂いています。彼女とは、なんと名前も一緒、誕生日も一緒と共有点が多くて。共に店のオープン時期も近く、同世代なので、業界は異なりますが悩み事を相談しあったり、親しくさせていただいています。

ご夫婦で店を経営されていますが、内助の功といいますか、店の裏方をしっかり守っていらっしゃる芯のしっかりした女性です。

クックビズ世古:ありがとうございます。横山さんにお話を伺うのが楽しみです。今日はありがとうございました。

まとめ

コロナ禍で、飲食店と同様に打撃を受ける花業界。予算を落としてディスプレイしてほしいという注文も多いそうです。そんな中でも、花材選びに工夫を凝らし、これまでと変わらないボリューム感を演出し、期待以上の仕事ぶりでクライアントからの信頼も厚い小森さん。

将来は「お花を教えること」を仕事にしていきたいと夢を語っていただきました。お店は神戸らしいモダンな店構えですが、ご自身は気さくで飾らない方。終始笑いの絶えないインタビューとなりました。

次回は、神戸・ハンター坂に店を構えるフレンチ割烹「新月」の横山 美妃さんをご紹介します。お楽しみに!

<インタビュー:世古 健太・方城 友子、記事作成:杉谷 淳子>

<フラワーショップ「Jardin Clair(ジャルダン・クレール)」>

店名の「Jardin Clair(ジャルダン・クレール)」は、仏語で「光の庭」の意。神戸港の青くきらめく海、緑豊かな六甲の山々。そんな神戸から、輝きを放つ花たちを真心を込めてご提供したいと名付けたそうです。

instagram jardin_clair_
facebook @JardinClair

取材協力

店名 flower shop Jardin Clair(フラワーショップ ジャルダン・クレール)

▼続いてのリレーインタビュー記事はこちら

余韻が残るおもてなしをめざしたい。夫を支えてレストランを切り盛り。日々の丁寧な積み重ねが未来につながる【リレーインタビューVol.5】