“公邸料理人”という一風変わった肩書きを持った料理人がオーナーシェフを務める日本料理店があります。京王井の頭線の神泉駅から徒歩数分の場所で暖簾を掲げる「日本料理 いまここ」は、街の喧騒から離れた、落ち着いた空間が広がるお店。
オーナーシェフの大角 公彦さんは、18歳で料理の世界に入ってから、「新宿 なだ万」や、グランドハイアット東京「旬房」で日本料理を学んだのち、2010年から2年間、南米ボリビアで日本大使館公邸料理人を経験しています。そんな大角さんの生い立ちから、「日本料理 いまここ」のこだわりについてお話を伺いました。
▼プロフィール
大角 公彦(おおかど きみひこ)さん
1980年生まれ。幼少時代を海外で過ごし、和食に対する強い思いを持ち料理の世界へ。帰国後「なだ万」や「グランドハイアット東京」などの有名日本料理店やホテルで修業を積む。2012年に南米にて日本大使館公邸料理人を務め、「優秀公邸料理長」として表彰された。その腕を振るう場所として2013年6月に「日本料理 いまここ」を開店する。
ルーツは世界各国で過ごした幼少時代
──大角さんの生い立ちを教えてください。
父が商社マンだったこともあり、小学1年生の頃から、インド、マレーシア、シンガポールと高校を卒業するまで海外を転々とする生活を送っていました。ここで得たものは日本食への欲です。
昔の海外では和食を食べる文化がほとんどなかったので、幼いながらも「どんな形だったら楽しんでもらえるのか」と色々考えていましたね。
──料理人になろうと思ったきっかけはなんでしたか。
海外にいる期間が長く、あまり和食を食べられなかったことから、自然に「和食を食べたい、そして作りたい」という気持ちが徐々に芽生えてきたことがきっかけです。
海外にいたからこそ、“素材を活かす繊細な味付け”や、“季節を感じる美しい盛り付け”に惹かれるようになったのだと思います。
──現在のお店を持つまで、どのような経験を積まれましたか。
高校を卒業してすぐ、18歳の時に料理の世界へ入りました。そこから約15年、日本でひとりの親方について和食の追求をしてきました。そして、元々住んでいた海外に行きたいという強い思いから、南米ボリビアの日本大使館を次の職場として選び公邸料理人として2010年から2年間従事しました。
公邸料理人の仕事とは、大使夫妻に付いて、朝昼晩のご飯とおやつ、時々会食の料理を作ることです。天皇誕生日には祝賀パーティーが行われるので、800人~1,000人分の料理を担当することもあります。多くの経験をさせてもらい、求めるものに応える力が付きましたね。
帰国後、外務省から優秀公邸料理長として表彰いただいたのち、2013年に渋谷・神泉に「日本料理 いまここ」をオープンしました。
素材の持ち味を活かしながら、あっと驚く遊び心を
──「日本料理 いまここ」はどのようなお店ですか。
本格和食を提供しながら、肩肘の張らないスタイルを一番重視しています。お客さまが緊張してしまうようなサービスではなく、程よい距離感を保ちながらお客さまと会話をして、仲良く楽しめる空間づくりを心がけています。
若い世代の人にも和食を好きになってもらえるようになりたいですね。
──料理のこだわりや大切にしていることを教えてください。
まず、食材は「里山里海 能登の恵みを余すことなく」をテーマに、自分のルーツでもある石川・能登の食材を使った日本料理を提供しています。鮮魚は、能登の美味しい魚を食べて欲しいという思いから、水揚げ後すぐに当店に直送してもらっています。
素材の持ち味を最大限に活かしながら、あっと驚くアイデアや、形式にとらわれない発想を加えた料理を作るようにしています。
またコース料理では、単調に進んでいくだけだと飽きてしまうので、素材を生かしたシンプルなお料理の次にメインとなる食材を使ったお料理を出して緩急をつけたりと、どんな方にも“美味しく、楽しい時間”を過ごしてもらうことを一番大切にしています。
和食をもっと多くの人に。公邸料理人の経験をつなげていきたい
──「日本料理 いまここ」は今後どのようになっていきたいですか。
来てくれた人に楽しんでもらう、ただそれだけです。
公邸料理人としてたくさんの人に和食の素晴らしさ、美味しさを伝えてきた経験から、お店を通じてもっと食の楽しさを広く伝えていきたいと思っています。
そのために、必要であれば店舗を増やしていくなど、自分なりにできることを行っていきたいです。
──新しくオープン予定の富山県のレストランはどのようなお店なのですか。
富山県の高岡市にある山町筋という通りは、風情のあるとても綺麗な街並みです。
縁があって足を運んだ際に漠然と「ここで料理をしていきたい」と感じたんですよね。
それに加えて、北陸の食材の美味しさも理由のひとつです!生産者の方たちの思いも強く、この地で一緒にやっていきたいという思いが、新店を作るきっかけになりました。
店舗は明治に建てられた国登録有形文化財の建物を利用することでも、注目が集まっています。
また、海外で公邸料理人をやっていたという経歴もあって、街の方も行政の方も応援してくれたりと、全力でサポートしてくれています。食を通じて人と繋がれることを肌で感じましたね。
高岡はあまり知られていない場所なので、これをきっかけに街全体を盛り上げていきたいです。
まとめ
親しみのある笑顔でインタビューに答えてくださった大角さん。料理を始めた途端に真剣な表情で食材と向かい合い、料理人としての真剣な眼差しを垣間見ることができました。
新しく富山の店舗もオープンするということで、大角さんが料理を通じて届ける和食の素晴らしさ、そして公邸料理人の仕事の技が多くの人に広まることが今から楽しみです。