農地はバックに立つ堀内さんの写真

日持ちすれば売り切れるはず!梅干しやドライフルーツが大ヒット

──堀内さんのバイタリティってどこからくるんですか?
母方の祖父が、戦後、薬売りの商売で成功した人で、その影響はあると思います。奈良はもともと薬草栽培が盛んで、祖父は奈良の漢方薬を、東京に持っていき、置き薬として行商にまわり、店を構えた人。商売の面白さは祖父に教わりました。

──行商ですか、血は争えませんね(笑)。
今なら農産物を直売するおしゃれなマルシェもあるけれどね。そもそもフルーツは鮮度が命。トラック販売で生柿を売り続けるのは、効率も悪く限界かなと。

──それで、加工品の生産をはじめたんですね。
日持ちすれば、すべて売りきる自信があったしね。手始めに「梅干し」「干し柿」を作り始めました。実はね、梅干しは今も売上ナンバーワンなんですよ。

──えっ?今も?
そうなんですよ。やっぱり梅干しや干し柿などは、世代も問わないしね。ドライフルーツはお陰様でヒット商品となりましたが、実際は、オーソドックスな品目がよく動くんですよ。特に梅干しは、腐らないし、流通にのせやすい。資金の計画性も見通しが立ちやすい品目だから、こちらとしてもやりやすいんです。

木箱に乗ったで8種類のドライフルーツの写真

今が食べ頃というフルーツの一番おいしい時期に摘み取り、ドライフルーツに。完熟だからこそ出せる鮮やかな色合いは、食べる人をワクワクさせる。<画像提供:株式会社堀内果実園>

下記のドライフルーツの写真

<画像提供:株式会社堀内果実園>

やりたいことはまず言葉にする!海外進出を実現

──でもドライフルーツをつくるのは手間がかかりそうですね。
そうですね。販路が増えてくると、やはり家内工業の生産では追い付きません。そこで、ここはステップアップの時期と考え、2012年に思い切って設備投資しました。

──具体的には?
高品質のドライフルーツを製造するための機械を思い切って購入。フルーツの栄養価を損なわず、おいしさはそのままに、乾燥させる機械です。これで大量に生産できるようになりました。

ドライフルーツの生産現場の写真

ドライフルーツの生産現場。柿をマシンにセットすると、あっという間に外皮が剥け、しっとりとしたフルーツの果肉があらわれる。

──海外に進出したのもこの頃ですか?
同じ頃かな。日本は人口も減る。オリンピック景気も今から数年がピーク。今後、消費を掘り起こすといってもね。海外に販路を開くことは、どこの会社も考えると思うけれど、そういう流れがあるなら、早めに準備していこうと考えました。外国人がクールととらえる日本の魅力「クール・ジャパン」は国策となっている今がチャンスともいえましたし。

──「クール・ジャパン」といえば、アニメなどが思い浮かびます。日本のポップカルチャーだけでなく、国では食、地域の特産品も支援していたんですね。
そうですね。「農業もほかの産業と同じように、そんな先端の時流にのっていかねば」と感じました。はじめはどうやって海外に販路を広げるのか皆目見当もつかなかったんですが…。

木になった柿を手に話す堀内氏の写真

──ためらいはなかったんですか?
不安なのは知識がないから。だからやってみたいこと、挑戦したいことは、口に出して周囲にいっておくんです。行政もふくめ、いろんな会合に顔を出し「フルーツの輸出もしたい」「海外ってどうかな」と口に出しておく。そうしたら、自然と情報が集まってくるようになったんです。

──それはいいですね。
そんなことで、いろんなところから声がかかったりしてね。香港への輸出はね、県庁の担当者がジェトロ(日本貿易振興機構)との香港での商談会に誘ってくれたのがきっかけです。それが縁で、海外からバイヤーがこの農園まで視察にきてくれて、商談が成立しました。

──海外展開へのパターンを1つ攻略した感じですね。
そうそう。やろうと思っていても黙っていたら、意思が伝わらない。こんな奈良の山の奥にこもっててもアカン!情報は自らとりにいきます。勉強会やセミナーにも積極的に参加。今年はシンガポールにも進出が決まったしね。がんばりますよ。

誰かにできたことは自分にもできるはず

──堀内さんは起業家精神にあふれてますね。
それはね、やっぱり祖父の言葉かな。「どんな人も生まれつき才能があるわけじゃない。人ができることは、ぜったい自分にもできるぞ」と子どもの頃から繰り返し言われました。

──「人ができることは自分にもできる」。勇気が出ますね。
1970年代に東京に初めてマクドナルドができて、祖父に連れていってもらいました。その時に、アメリカから「マクドナルド」を日本に持ってきた藤田田(ふじだでん)という人の話をしてくれたんです。

輪切りのミカンがずらーっと並んでいる写真

<画像提供:株式会社堀内果実園>

──「マクドナルド」ですか?
そうそう。初めて食べたマクドナルドは本当においしかったけど、ハンバーガー1個が、当時はとても高価な食べ物でした。しかし飲食業界の次のステージをみすえて、「これは日本で流行る!」と藤田さんは確信したんでしょうね。

──行動しなければ何も始まりませんよね。
農業界は、良い農産物をつくることが全てで、商いは後回しになっているところも多いと思います。しかしどこの業界も要はビジネス。確信をもてたら、行動に移す。そしてあとは、どれだけ努力したかも大事になってくるでしょうね。

農業、飲食業界の給与水準を上げたい

──今後の堀内さんの目標は?
これから毎年2店舗ずつ増やして計10店舗になったら、ある程度の景色が見えてくるんじゃないかなと思うんです。そこから先はそれから考えます。資金が必要なら、上場をめざすもよし、ファンドの運用もあるし、今はいろんな方法があるんで。あとは従業員の年収が上がるようにしたいですね。

──スタッフの給与アップですか。
農業や飲食業界の平均給与は、ほかの業界に比べて平均的に低いのが現状です。
上場している農業生産法人もありますが、早くほかの業界と同じような水準にまで上がらないと、人材が集まらず、日本では生き残れない業界になってしまいます。

柿の木が傍らにある手すりに手をかけて佇む堀内氏の写真

──若い世代にどんどん入ってほしいですしね。
そうですね、当社は20代がたくさん活躍しています。ありがたいことに、社員一人ひとり成長してくれた。だから事業も発展したと思っています。
九州から移住して家族をつくり、ここで家を買ったスタッフもいる。これから30~40代になり、お子さんが大きくなったときも満足できる暮らしをしてほしいからね。

──社員一丸となって取り組んだからこそ、「アグリフードEXPO 輝く経営大賞」も受賞されたんでしょうね!
いやいや、どうなんですかね。売上をさらに伸ばすためにも、みんなの力でアイデアを出し合って、利益を出していきたい。そのためにもコミュニケーションをとる機会を増やしたいし、役職など関係なくスタッフみんなが出席して、わぁわぁと意見を出せる場を設けたいですね。

堀内氏の人生グラフの画像

編集後記

息抜きは「大きな本屋で、いろんな本を手に取って眺めること」という堀内さん。事務所には、経営やビジネスに関する書籍が並んでいました。
2019年夏には「アグリフードEXPO輝く経営大賞」を受賞。商品のブランド力を向上させ、フルーツをはじめとする奈良の農産物の魅力を伝え、地域農業を牽引していく経営手腕が評価されました。

取材を訪れた日は、柿の出荷シーズン。冬の剪定、土づくり、春からはよりすぐりの果実をつくるため、1枝1枝確認し、1つ1つの果実を見守り、育てていくのは、かなりの手間と何より愛情が必要です。

「多くの人にフルーツのおいしさを知って、楽しんでほしい」。そう語る堀内さん。帰りにはたくさんの柿をお土産にいただきました。丹精込めてつくられた果実は、ほんとうにみずみずしくて美味しいの一言。

これから、さらに国内外へ日本のフルーツの美味しさを伝え続けてくださいね。

<インタビュー・記事作成:杉谷 淳子、撮影:久岡 健一>