第3回 焼とりの八兵衛/有限会社肉のやしま 八島 且典氏

今回お話を伺ったのは今注目の経営者、焼とりの八兵衛(有限会社肉のやしま)の八島 且典氏。以前インタビューさせて頂いた株式会社ベイシックス 代表取締役 岩澤博氏がご推薦人です。福岡県前原の地で創業、今年で30年という節目を迎えた、焼とり業界屈指の老舗経営者の本音を、クックビズ藪ノが直撃します。

2店舗目を出すまで、こだわり続けた17年間。出店後、耳を傾けたのは女性の声

藪ノ:来年で創業30周年とお伺いしました。現在までの軌跡を振り返って、何にこだわった30年だとお考えですか?

八島氏:こだわるものはありすぎる程あるのです、しかも異常に(笑)。店に関することなら全てに渡ってこだわります。店の内装にこだわるのはもちろんのこと、煙のない空間でお客様が焼き鳥を楽しめるよう、強力な空調を完備。また近隣のお店にも迷惑をかけないよう、店外にも煙を出さない空調も整えています。設備だけでなく、焼き鳥を焼く炭にももちろんこだわる。新鮮なネタを使う以外に、こだわりは数えきれないくらいあります。

藪ノ:そのこだわりは、開店当時からですか?

八島氏:二店舗目を出したい、そう思い続けた17年間の間に蓄積されたものですね。30年前、商店街の片隅で母親と始めた「八兵衛」一号店。店は順調でしたが、二号店を出すまでは、実に17年もの歳月が経っていたのです。よくも悪くもその間、勉強しすぎたんですね。もしすぐに2店舗目を出していたら、実践で勉強していたかもしれないことを、17年間もの長きに渡り空想で勉強していた。「2号店を出したい」という、17年間の思いや憧れが、一号店をもっと濃くしてやろう、と思いに変わっていたのです。その思いがありすぎる程のこだわりにつながったのだと思います。

藪ノ:二号店を出店していかがでしたか?

八島氏:2000年に晴れて二号店を出せたのですが、これが見事に外れて(笑)。こだわって作った店なのに、はじめはお客様が全然来なかったのです。約9ヶ月程、苦労したのを覚えています。

そんな時に取り入れたのは、女性の声。徹底的に女性の声を聞きました。女性がたくさん来てくれるお店にしたかったからです。聞くと女性の心理は単純ではなかった。女性だから少ない量、を求めているとは限らないのですね。女性だけど量は食べたい、飲みたい。でもきれいなところで食べたい。女性=可愛い、だけじゃ物足りなかったのです。女性が満足いくまで食べられて「きれい」にみせられる工夫、これが必要だったと分かった後は、お客様の来店数も徐々に増えていきました。

目指したのは、女性に支持される店、お客様に贅沢してもらえる店。全ては、ずっと続けられる店作りのため。

藪ノ:どうして女性が来るお店にしたかったのですか?

八島氏:創業から2号店を出すまでの17年間思っていたのは、「焼き鳥の地位を上げたい」ということ。イメージの向上のためにはやはり、女性にたくさん来てもらえる店にしたかったのです。

だから店内にお金をかけてでも、空調にはこだわった。女性が快適に過ごせるように、店内では煙を出さない。おいしい焼き鳥にするために、強い火力で肉を焼いても、店内が煙で充満しないように。しっかり整えた空調で、きれいな店内を作り出す。そして、女性が求めるメニュー作り。焼きとりだけでなく、デザートも出す。楽しいお店にすることで女性に支持される=地位向上を目指したかったのです。

藪ノ:御社のWEBサイトには「お店は自分が贅沢するのではなくて、お客様に贅沢してもらうもの」とありましたが、かなりお客様の快適さにはこだわっているのですね。

八島氏:もうこれは私の病気ですね(笑)。例えば、店内には外から空気を入れて換気する設備を整えているのですが、これはすごくコストがかかること。知人の飲食店経営者には、「よくそこまでお金をかけるね!」と驚かれます。他社では200~300万円で出来る設備を、当社では1000万円くらいかけているためです。お店にはお金をかけないで、海外へはファーストクラスで行く経営者。お店に金をかけて、海外へはエコノミークラスで行く経営者。私は言うまでもなく後者ですが、どちらも正しいと思っています。

私はお店をはじめる際、絶対に閉める事を考えたくない、長く続けたいという思いが強いだけ。だからお金をかけてでも周りのお店にも、お客様にも迷惑かけない店作りをしたい。これが私のやり方だから、仕方ないと思っています(笑)。

時代は地方to地方。地方のノウハウで目指すは海外。

藪ノ:御社は2000年の天神店出店を皮切りに福岡で3店舗。その後、2年という短期間で六本木に5店舗目、さらに3年後には同じく六本木に6店舗目を出店されましたが、今後も地方から東京へ出店する流れは続くのでしょうか?

八島氏:今後は難しいと思います。特に六本木。昔は六本木に出したら「すごい!」と言われたものですが、いま山手線内のエリアは、土地代が高い割に人が少ない。そんな中で成功するのは、昔以上に難易度が高くなっているのです。若手経営者で成功している人も、みんな山手線の外のエリアで成功しているのではないでしょうか?

藪ノ:では今後、東京出店を目指す飲食店は少なくなると?

八島氏:今後は地方to地方の時代だと考えています。昔は東京に行けば全てが勉強出来た時代でしたが、今は東京の人が地方に行って、地方を“パクって”帰ってくる。みんな地域色を出すのに必死です。

例えば、福岡に土佐の料理を出せば絶対あたる。東京に学ぶべき物はない!といったら語弊があるかもしれませんが、今それくらい地方の時代が来ていると思います。

藪ノ:では今後、御社の店舗展開としてはどのエリアをお考えなのですか?

八島氏:国内ではなく、海外です。日本の地方に特化した物を海外で売ったらいい。海外の新聞社や記者たちなどが、旅行に来て一番驚いているのは博多の料理だと言います。魚の新鮮さ、味、全てが「amazing!(見事だ!)」と。実際、当社もアメリカにあるレストランに、焼き鳥に関するノウハウを提供していますが大成功しています。

藪ノ:では今後、御社では海外志向の強い人材を求めていかれるのでしょうか?

八島氏:そうですね。今後、国内に出店するとしても1~2店舗だと考えています。日本で一番難しい街・東京や福岡でいいお店を出した後に、その店をモデルにして、海外に出店していきたい。当社のノウハウをもって独立した人は、現時点で10人程いますがみんな成功しています。NYでノウハウ提供した店も大成功しました。その知識と経験を持って海外を目指す、そのうえで必要になるのが人材です。

海外志向のある人、やる気がある人がいれば、八兵衛香港、八兵衛上海、八兵衛コリアなども出していきたい。既に働いてくれているメンバーの中にも、海外思考の強い人が多いですし、NY帰りの人も2人ほどいます。焼き鳥を通して、世界に飛び出したい人がいれば、どんどん出て行きたい、そう考えています。

今、飲食人を取り巻く世界の環境は最高!私は私のやり方で世界を目指す。

藪ノ:海外を目指す上で、今後、社長はどんな役割を担っていかれようとお考えですか?

八島氏:お店が6店舗に増え、当たり前ですが「社長業」をする立場になっていました。でも基本は個人商店だった頃のままなのです。焼き場で焼いて、お客さんと話して、その中で改善点を見つけていく。現場しか自分が活きるところがないのです。自分がもっとも活きる場所と社長業との乖離にここ数年、すごく悩みました。いろんな方の話も聞きました。もっと社長業を勉強して、従業員に夢を与えて…。それが社長だというのもわかります。

だけど、どう考えても私が焼き場に立つことが当社の強みなのです。私が焼き場に立ち、弟子がいて。私が一番生き生き出来るやり方をみんなにみせる。私には私のやり方があると、本当にここ数ヶ月で気づいたのです。大切なのは、私の生き様に共感出来る若者が何人いるか。「社長、また現場に戻るんですか?」なんて声もありますが、きっと社長業にセオリーなんてないのです。

藪ノ:それほど焼き場でお客様とのコミュニケーションは大事なのですね。

八島氏:焼き場を離れると思いが膨らみすぎて、現場とのズレが出来てしまう。スタッフと一緒に汗を流し、お客様と話しながら、お客様の考える事を少し先を作っていく。細かな量やタイミングは、顔を見ないと分からない。むしろ、細かいところまでも見たい。それが私のやり方です。

藪ノ:入社歴が浅い方に対しても、社長のお考えは伝わっているという実感はありますか?中には飲食業界が「好き」という理由で入社してくる方も少なくないと思いますが、社長のお考えと、自分の「好き」とは違うと言って、辞めていく人については、どうお考えですか?

八島氏:まだまだ私の考えはスタッフ全員に伝わりきってないと思います。だからこそ現場でもっと伝えたい。私のように、みんなにも自分のために頑張ってほしいのです。お店のために働く、というのは嘘。自分のために頑張れない人は続きません。だから自分の「好き」と違う、といって去るのもひとつ。でも飲食は「しんどい」といって辞めるのは違うと思っています。

藪ノ:飲食は「しんどくない仕事」ですか?

八島氏:もちろん!一般的な会社にお勤めの方たちは、早朝から起きて会社に行き、下手したら終電で帰る人もいると聞きます。それなら飲食のほうがずっと楽。まかないも付いていますし(笑)。

しかも飲食は世界と戦える。5年~10年で成り上がろう!という人は、飲食で海外を目指すのがいいと思います。特にアジア。アジアの人たちはお金を持っているのに、買う物がない。国内にクオリティの高い物が少ないからです。だから日本のものを買う。もちろん法律や言葉など、壁はとんでもなく高いけど、成功している人もたくさんいます。世界に出て行ける職種、それが飲食なのです。

藪ノ:若手の方にメッセージを。

八島氏:「若者よ、食を通じて世界を目指せ!」でしょうか(笑)。好き嫌いもあるでしょうが、てっとり早く世界にいけるのが飲食です。日本の飲食ノウハウ・経験は世界と戦えます。戦うツールも出来ています。むしろツールでなく、ウエポンかもしれない。いま国内だけみたら最悪に見える飲食業界。でも世界における飲食の環境は最高です。お互いよきライバルとなり、飲食で世界を目指しましょう!

編集後記

取材を通して感じたのは、八島さんの悩みながらも前に進んでいく力強さでした。
私も社長業をしていて、現場に出るか経営に回るか、悩んだ時期がありましたが、これは100人あれば100通りの考え方、経営判断があるものだと思います。
八兵衛のコアコンピタンスは八島さん自身である。
そこから逃げずに焼き場に立ち続ける決断をされた事はとても意義深いことだと感じました。
(取材:クックビズ藪ノ)

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