飲食人材のプロによる”食”の総合メディアクックビズ総研では、飲食業界にとって永遠のテーマである「修業」に切り込み、イタリア・フランスで活躍するプロフェッショナル3名と座談会を開催。日本での修業時代、海外での苦労話、修業にまつわるイメージなど、さまざまな角度からお話しいただきました。
修業は辛く、厳しいものなのか。それとも料理人にとって必要なものなのか。答えはひとつではありませんが、この記事を通じて【何か】を感じとってみてください。
いまの時代、修業ってどう思う?「飲食業界の修業」に関する意識調査の結果は
<参加者のプロフィール>
■荘田 洋介(しょうだ ようすけ)さん/「Restaurant le 703」(フランス・パリ)シェフ1985年生まれ・岐阜県出身
日本在住時は、「ヴェール・パール・ナオミ・オオガキ」(横浜)に在籍。「RED U-35」2019 BRONZE EGG受賞。■森山 慎平(もりやま しんぺい)さん/「ILSALE」(イタリア・トスカーナ)シェフ1985年生まれ・宮城県出身
2020年、リゾートホテル「Poggio ai Santi(ポッジォ アイ サンティ)」内「ILSALE(イル サーレ)」シェフに就任。同店は「ミシュランガイドイタリア 2021年」ミシュランプレートに認定。2023年、イタリアのグルメガイド「ガンベロ・ロッソ」で2フォルケッテ獲得。■美濃和 駿(みのわ しゅん)さん/ワイナリー「Shun Minowa」(イタリア・ピアチェンツァ)代表1984年生まれ・千葉県出身
ナチュラルワイン醸造家。チリほか、イタリアのワイナリー「ラ・ストッパ」で修業。師匠はジュリオ・アルマーニ氏。
修業=新人にとって辛い時期のことなのか?
昔からさまざまな業界にある修業ですが、飲食業界でもよく耳にします。まず、フランス・パリでシェフをされている荘田さんにとって、修業とはどんなものでしょうか?
私自身、現在も学びが多くて絶賛修業中だと思っているので、毎日をガムシャラに頑張っています。もし、駆け出しの若い頃が修業時代だったと思い返せば、”苦しかった”の一言ですね。
最初に勤めたお店はすごく厳しくて、人権があるかないかのレベルでした。業務中は「はい」か「すみません」しか言葉を発してはいけなかったくらいです。なんとか頑張って耐えていたんですが、意見が合わず辞めてしまいました。でも、この決断があって今のオーナーと出会うことが出来たんです。
荘田さんにとってのキーパーソンと2店舗で出会ったんですね。2店舗目での修業はどうでしたか?
良い意味で貴重な時間でしたし、1人の人間として扱ってくれました。オーナーはずっとフランスで働いていたので、いわゆる日本でよくあるようなガチガチの縦社会という概念が無いんです。仕事に対してはすごく厳しいけど、厳しさの【意味】がまったく違いました。
イタリア・トスカーナのホテルでレストランのシェフをされている森山さんはいかがですか?
私が日本にいた時、駆け出しの頃がまさに修業でしたね。日本の飲食店はイタリアに比べると労働時間が長いですし、ガチガチの縦社会です。それに加えて、下働きというか、決まったことしかさせてもらえなかったんです。雑用全般とまかない作り、各ポジションのお手伝いだけで、料理をしている!という感じがまったく無くて。大きいレストランの小さな歯車の一部でした。
それでも修業を続ける意味を見出していたんですか?
ずっと辞めたかったんですが、ここで辞めたら意味がないな、せっかく入ったからには一通りのポジションをやらないと、と自分を鼓舞していました。1年目はなんとか耐えて、後輩が入社したら楽になりましたね。
新入社員が入っては辞めていくお店だったんですが、「こういう世界に入ったんだ」と思っていたので、修業の厳しさや辛さに関しては深く考えてなかったです。
同じくイタリアでナチュラルワインの醸造をされている美濃和さんはどうでしたか?
荘田さんが仰ったように、私も修業期間があったとは思っていないですね。修業とは、自分を成長させるためのエネルギーを投資する期間というイメージです。
勢いとタイミングが生んだバイタリティ!
日本ではなく海外での経験を積む一番大きな動機はなんですか?
元々東京のワインショップで働いていたんですが、自分の目で確かめたいというのが海外に渡った理由です。
ヨーロッパに来て10年以上になります。当初はヨーロッパのワインの日本への輸入販売をする予定だったんですが、ちょうど収穫期だったこともあり、ワイナリーで生産のトレーニングをさせてもらったんです。それが「こっちの方がおもしろい!」と感じたので「売る」から「作る」に方向転換しました。
そのワイナリーには飛び込みで入ったんですか?
そうなんです。言葉も知らない日本人を、よく受け入れてくれたなぁと思います。海外で働かれている日本人は私のような飛び込みが多いかもしれません。
私は、日本で5年ほど働いた後にイタリアに渡りました。新たな刺激が欲しかったため「見に行くだけ」と渡伊し、気づけば10年が経ちました。
イタリアで働き始めてから、ちゃんと料理をしているなと実感しています。最初に勤めたのはトスカーナの海沿いの街にある家族経営のレストランで、手づくり感満載でしたね。おばあちゃんが自室で作った料理を提供することも普通にあるような(笑)。
当時は学生の身分で入ったので働く時間も曖昧でしたが、全く苦ではなかったです。働けるだけでラッキーでしたし、住み込みだったので衣食住も確保できました。
私の場合ですが、日本でフレンチをしていた時から、現地での食材流通とか、売られ方とか、実際はどうなんだろうと気になっていました。
実は、辻調理師専門学校時代にフランスへ1年間行っていたことがあって、帰国後もずっとフランスへ行きたかったんですが延ばし延ばしになっていて。当時、勤務していた「ナオミ・オオガキ」の横浜店を買い取って独立するか、フランス出店に参加するか、という選択肢があったのですが、フランス行きを選択しました。
天秤にかけられない⁉お金と刺激と充実感
稼ぐこと・技術をみがくこと・生活すること・楽しむこと。海外での暮らしの中で重きを置いているのは何ですか?
修業時代は稼ぐことに重きは置いてなかったです。学校はお金を払って学ぶところですが、修業は「お金をもらいながら学べる」という想いが自分の中にあったんですね。
実際、最初は生活が苦しかったです。いただく給料では到底生活ができず、働けば働くほど借金が増えるといった感じです。働いた稼ぎよりも、食べに行ったり勉強にお金がかかったり。さすがに極端な話ですけども(笑)。頑張って稼げるようになろう!という反動になっていましたね。
イタリアに来てすぐの頃は、学び、体験することを重要視していましたので、最初は給料の交渉はせず、提示された金額で納得していましたね。それよりも「雇ってくれてありがとうございます」という気持ちが大きかったんです。
語学力がついて、技術が上がってきたタイミングで交渉を始めました。基本的には、決まった月給ではなく実力給ですので、私を気に入ってくれた段階から給料の交渉をしていました。
日本の料理界でも実力給なんでしょうか?
日本もある程度の段階までくると実力給だと思います。履歴書を見ればだいたいの実力が分かりますし、実際働いてみれば一目瞭然です。
現在は毎年給料交渉をしています。ただ、イタリアでは一定額を超えると税金も高くなるんです。取り分が少なくなるので、そのラインを超えないように家賃補助にしてもらったり、ウェルファー(福利厚生)をチケットでもらえるように交渉しています。
すごく良い会社ですね!私の周辺では聞いたことがありませんよ。
そうですね、町場のレストランは難しいかもしれません。ネームバリューのある店や履歴書がたくさん届くお店だと、雇われる身としては強気に出れないこともありますしね。
森山さんにとって、楽しむことや生活することへのウェイトは高いですか?
もちろん高いです!仕事への原動力にもなっています。休日は積極的に出かけたり、外食したり。田舎の方に行けば、初めて見る食器などがあったりするので仕事にも繋がっています。
美濃和さんにとっては稼ぐこととそれ以外の比重はいかがですか?
稼ぐ=プロフェッショナルという意味合いで考えれば、自分が今どの位置にいるかを測れると思うんですね。
私の場合、来たばかりの頃は、言葉も話せないし、ワイン作りのワの字も分からないという状況だったので働かせてもらってるだけで満足でした。研修生制度で働いてたので、2〜3年くらいはほぼ無給でした。生活費を稼ぐために、日本の企業に登録してリモートワークで物書きのアルバイトをしていました。
辛くなかったですか?
辛くはなかったです!働けることに感謝していたので、自分はラッキーだと思っていました。周りを見ても日本人を雇ってくれるワイナリーは無かったですし。
最初はそれで良かったんですが、時間が経って、使い物になってきたくらいから給料ゼロでは話にならなくなったという感じです。
経営者となった今は稼ぎが何よりも大事ですね。ワイナリーの運営がありますし、畑の維持や設備を整えたりするので、無くてはならないものです。
何気ない経験が一生の財産に!
経験して良かったと思う修業はなにかありますか?
醸造の現場に入った当初は、何もできなかったんですよね。だから、朝ワイナリーで発酵してるすべてのタンクのチェックだけは心がけていました。他のスタッフが働き始める時には、どのタンクがどういう状態なのかをすぐに伝えられるようにしていました。泡の様子とかどんな香りがするとか、私にできることはそれくらいしかなかったんです。
何時間もかけてずっと見ていたんですか?
そうです。発酵してるタンクを見ていると、プクプクって泡が上がってくる瞬間があるんですが、もうね素晴らしいんですよ!泡を見てるだけで満足できるんだから、やっぱり天職ですよね(笑)。刻一刻と発酵の状態は変化するので、リアルタイムで追う必要がある。この時の経験が今も確実に生きています。
私は修業というか、日本でのアルバイト経験が意外と役に立ちました。居酒屋や焼肉店でアルバイトをしていたんですが、イタリアに来てから「イタリア料理以外のものを作ってくれ」と言われた時にすごく役に立ちました!
イタリア料理のお店なのに、そんなリクエストもあるんですか!?
「日本人なんだから日本料理を作ってくれ」と言われることがすごく多いんですよ。断ることもできるんですが、メインで作れる貴重な場でしたので「やります!」と即答していました。実際やってみたら評判が良かったんです。これは経験がないと難しいですよね。居酒屋料理の唐揚げとかつくねとか、ちょっとしたものです。
あと、自分のお店でも違うアプローチの方法として、個人的なエッセンスを料理に盛り込みたいときにも役立てています。
私も実はアルバイトの経験で得たものが大きいです。料理人としてというより、人としてです。飲食とは異なる業種でのアルバイトをいっぱいしましたね。宅配業、工場、道路清掃とか。同じ飲食業態ではカフェや旅館もあります。違う目線で仕事内容や人間模様を見てきたのは財産になっています。今では絶対できないことを経験していますし、ふとした時に思い出すことが多いです。
料理人も結局人と仕事をするので、いろんな方と接してきたのは大きいですね。苦労した時代に得た大きなものです。
変わりゆく飲食の世界と、変わらない人との繋がり
逆に「これはツラかった」という修業はありましたか?
料理面で辛かったことは無いんですが、お店と取引している農家さんへ働きにいく期間があったんです。その農家さんは「農家の仕事を知らないと取引しない」というスタンスだったんです。楽しかった半面、本当に辛かったですね。本気の農作業ですよ!野菜を採るとかではなく裏側を手伝うんですが、土を肥やすとか、終わった畑のネット回収とかで体力的にも精神的にも堪えました。
素材ができる過程の”知らない部分”を学べたのは、自分にとって大きな収穫になりました。
いいですねそのシステム。うちのワイナリーでも取り入れようかな(笑)。
一般的にはブドウの実が綺麗になってる部分しか知らないと思いますが、実はその裏側に80%くらいの大事なことが詰まってるんですよね。ワインと料理って共通することが多いと思います。
私の場合は、朝は7時に出勤して23時30分くらいまで仕事をしていたのが辛かったですね。で、寝てる間に足がつって起きるみたいな状況が続きました。その時は心身ともに疲れていましたし、一生は出来ない仕事だなと思ってました。でも、1年くらい経てば慣れるんですよね。不思議なことに。
イタリアには長時間労働はないんですか?
昔はありましたね。現状だとイタリアも人手不足が課題で、若者が長時間労働を受け入れなくなっています。昔は昼夜営業しているお店ばかりでしたが、今は半数くらい夜だけの営業になっています。そしてコロナ禍でトドメを刺された感じです。
世界的に、いわゆる”下働き”が集まらなくなってますし、「MAX9時間しか働きません」が当たり前になってきています。
だから昼夜営業しているお店は、人件費とメニューの価格が跳ね上がってるんですよ。たくさんの閉店も見てきましたし、昔の感覚だと人が集まらない状況です。
私がハードだと感じたのは南米チリで働いていた頃です。ワイナリーの中に建てられた小屋で従業員10〜15人が生活するんですね。お湯が出ず、お風呂は全部水。雪が降る時期は寒くて寒くて。最寄りのスーパーまでは7kmもあって、車がないのでヒッチハイクですよ(笑)。現地の方はアジア人に馴染みがないので、なかなか止まってくれず苦労しました。
ここが初めて給料をもらえた職場で、ワイン作りの全プロセスを知れた実りのある期間ではありましたが、人権という意味ではかなり問題がありましたね。特に南米は人権が守られないことも多く、福利厚生や安全性の確保などは皆無です。雇用の基本が整ってないなと感じました。
たしかにクックビズ総研が行った「修業」をテーマにしたアンケートでも、多くの方が「修業は仕事の上で役に立つ」と答えつつも、「低賃金、長時間労働など、不当な扱いを経験した」と回答しています。
飲食業界では、まだまだ解決しなければならない課題があるのも事実ですね。
世界中で日本人が重宝される理由
海外と日本の違い、または共通点はありますか?
私が所属するのは日本の会社なので正確かは分からないんですが、フランスもイタリアと同様、人が守られていると感じます。
バカンスを楽しむために仕事をしている人が多いんですよね。1年の半分はバカンスしてるんじゃないかと思うくらい休んでいます。店舗の工事に失敗しても時間がきたら帰るし、土曜日に直すよ!って言ってても平気で来ない(笑)。人それぞれですが、責任感の強さで言えば日本人は圧倒的に強いです。
休日については、日本人はお金をかけて楽しむ傾向がありますが、フランス人はお金かけずに楽しむのが上手だなと感じます。長期のバカンスもとってるのに、よく経済がまわってるなと思いますね。
ヨーロッパの人達は楽しむために生きるし、楽しむために仕事をするんですよね。心身の状態を犠牲にしてまで仕事をする日本はレアだと思います。
まだまだ日本は昔ながらの考え方なのかもしれませんね。
反対に、日本人はヨーロッパで重宝されることが多いです。責任感があるし真面目だし、自分の人生をある程度犠牲にしても、仕事に奉仕してくれる傾向が強く、それは海外の人からしてみればありがたいことなんです。ただ、長期的な視点で見ると利用されてしまうこともあるかもしれません。
確かに日本人は海外で人気だと聞きます。
どんな田舎でも日本人の料理人がいるし、引く手あまたです。ヨーロッパの文化は「欲しいものは自分から要求しないともらえない」ですし、要求することは失礼ではないんですよ。給料が低いなら言わないといけません。現状で満足していると捉えられるので、そういう意味では日本人はガツガツ言えないですよね。
良いところもあり悪いところもありますが、日本人が重宝されているのは事実ですし、ブランド化してる部分もあります。私のまわりでも、同じ賃金を払うなら日本人を雇いたいという人が多いですね。
イタリアでは、現地の方を雇うより日本人を雇いたいという考え方なんですか?
それは大いにあります。「日本人」以外では聞かないです。
イタリアでは自分から言わないと条件面は変えてもらえないので、帰国した人の話で不満や愚痴が出てくると、「それって交渉しなかったからじゃないの?」と思うことがあります。
イタリア料理だと日本人の給与水準は若干低い可能性がありますが、「いくら以上の給与じゃないと辞める」「給与水準をイタリア人と同じにして欲しい」と伝えることは悪いことではないですし、必要な人材だと認めていたら考えてくれると思います。
なるほど。フランスもそうですか?
フランスも要求することが大事ですね。ただ、パリは物価がほんとに高く、最低賃金ですら高いので、現地スタッフとの給料の差は感じたことはありません。こちらでも、日本人を探してるオーナーはたくさんいます。
フランスは労働時間の基準がすごく厳しいので、長時間働ける人材として重宝されている感じはあります。真面目な日本人へのイメージですね。
ヨーロッパの中でもフランスは特に労働時間に厳しいんでしょうか?
1日8時間以内と決まっています。他のお店がどこまで守ってるかはわかりませんが、うちのお店にも抜き打ちで視察にきました。疎かにはできない部分ですので、きっちりやっています。その分、上の日本人が倍働いてますが(笑)。
教える立場から意識を変えていけば良い
今後、経営していく上で、若い人を雇って教えていくと思いますが、今までのやり方を変えていかないといけないと思いますか?
やり方は変えていかないといけませんが、根本的なものは変えたくないです。以前、2人の19歳と私の3人で店をまわしてましたが、若者に多いわがまま、時間・給料の文句をいろいろ聞かされました。でも正直なんですよね。人間性がちゃんとあるというか。面と向かって話すことで理解し合えることもある反面、昔のようなやり方が通用しないなと思うこともあります。当時、その2人には「同じように教えず、人によって態度も変えるし、教え方も変えるからね」と伝えていました。差別でなくそれぞれに合ったコミュニケーションのやり方としてです。
そうですね、やっぱりいちばん重要なのは人間性なのかな。可愛がってもらった方がお互いに良いですから。うまく上を転がすではないですけど、先輩の「こうしてほしい」を押さえていたら気分よく教えてもらえますので。とにかく可愛いがられる子を演じてみることをおすすめします(笑)。
イタリアでも「可愛がられる」というのは大事ですか?
同じですよ!可愛がられる人とそうでない人がいます。が、断然可愛がられたほうが成長が早いですね。
経営者の役割は、従業員のその時、その時のゴールを明確化してあげて、そこに辿り着くための手助けをすることです。手取り足取り教えるとか、背中を見て学べではなく、何をしたいのか、どこに辿り着きたいのかを明らかにしてあげるのが大切になってくると感じています。
海外で修業する必要性は人それぞれ
若者は海外に出た方が良いと思いますか?
私の考えでは、必ずしも出る必要はないと思っています。その必要性を感じることがあれば否応なく出ざるを得なくなるからです。海外に出てワインの現場を見てるけど、そのことが日本でも役に立つかと言われれば、そうではないなと感じることも多いです。
私は現地を見た方がいい気がします。特に飲食業界の中でも、イタリア料理をやってるなら出たほうがいいなと。日本での”ハレの日の食事”は、イタリアでは普段の食事ですので。そういうのを肌で感じてから料理を作るのと、知らないで作るのでは料理に差が出てしまうと思います。実際に、私自身も変わりました。
私も絶対ではないけど、日本人だからこそ出たほうがいいと考えています。日本は島国なので周辺国との交流が他国よりも少ないんですよね。海外には刺激があるのと同時に、歴史的な部分を勉強できる機会にもなると思います。日本に対しても、その歴史文化への想いや気持ちが強くなります。いちばん言いたいのは、いろんな国の人たちとの交流はただ単純に楽しいですよ!ということですね。
今が楽しいのは、課題を乗り越えた過去があるから
お互いの「修業」論・体験を聞いて、どう思いましたか?
皆さん最初は苦労されていますね。やっぱり一人前になるまでは大変です。ワインの若い作り手志望の方と出会うこともありますが、「仕事量も多いし厳しいけど、今は学びの期間だから頑張ろう」という人と、「自分の生活スタイルが乱れるからやってられない」という人がいて、考え方はさまざまです。ある程度のレベルに達するまでは犠牲も必要だし、そこまで到達した人は仕事量が多くても嬉々としてやっていると感じます。
修業=辛いと思うか、自分のためと思えるかどうかですよね。
そう思います。辛い必要はまったくないし、これは違うなと思えばお店を変えればいい。自分の生業にするなら、仕事量が多くても辛くあってはいけないのです。欲しいスキルとか、あのレベルまでいきたい!という目標を立てること、さらにその過程が楽しいのであって、わざわざ茨の道を選ぶ必要はないと思いますね。
美濃和さんは楽しんでらっしゃいましたよね?
ずっと楽しかったですよ!ブラックな会社もありましたが、環境どうこうを除いては、仕事はずっと楽しんでやってます。
皆この仕事が好きでやってるし、選択しながら生きてるんだなと思いました。自分の判断にどう価値を見出すかが大事なのかなと。
頑張ることで次のステップにいけると思いますか?
そう思います。やっぱり覚えると仕事は楽しくなりますし、そこにいくまでの過程が大きく影響すると思います。イタリアにきてからは楽しいことが9割です!
でも、将来のことを考えたら日本とどっちがいいのか、まだ決めきれていないです。ただ、雇われる側からしたら保障も大きいしバカンスも用意されているので良い環境だと思いますよ。
皆さんの苦労話をたくさん聞けて、いい意味で救われました!今となっては笑い話に出来ているというのが、各々で確立されている今があって、凄さなんだろうなと感じます。
お2人がイチからイタリアでやっていく姿は、自分とは違うスタートラインの立ち方だったので、心底かっこいいなと思いましたし参考になりました!
本日は貴重なお話を聞けました!本当にありがとうございました。
まとめ
今回の座談会では「修業」というテーマから、それぞれの経験や想いを伺いました。3名にお話を聞く中で感じ取れたのは、修業=辛い・厳しいというイメージではなく、成長のためのステップアップ期間だということです。それはシェフや経営者となった今へと続いていくということも、大きな気づきとなりました。
人によって意味合いが違う修業。
辛いと感じていても今しかできない貴重な経験として受け止めることも、必要のない辛さに見切りをつけ新たな環境を探すことも、海外の異文化に飛び込む人生を歩むことも、どの選択も飲食人生の貴重な1ページになることでしょう。
もし今、思い描いた未来からかけ離れた毎日を過ごしているならば、ちょっと立ち止まって違う道や環境を探してみてもいいかもしれません。耐えることが修業なのではなく、自分次第で明るくもできるステキな期間として捉えてみませんか?
「修業」を楽しんだ料理人が1人でも多く飲食業界で輝くことを、心から願っています。