お料理を盛り付ける料理人

一人前になるためのプロセスである「修業」。技術を磨き、経験を積む機会となる一方、キツイ、ツライというイメージもまだまだ根強くあるようです。働き方や職場環境も様変わりしている現在、飲食業界で働く人たちが「修業」に対してどんなイメージや想いを持っているのか?今回、飲食業界に特化した求人サイト「cookbiz」の利用ユーザーである飲食従事者、および飲食企業にアンケートを配布。「修業」への意識調査を実施しました。
今回はその調査内容から一部を抜粋してご紹介します。

飲食店の働き方やあり方を考えるきっかけに

「修業」をテーマに設定した発端は、今年はじめに世界を駆け巡った「デンマークのレストラン『NOMA(ノーマ)』閉店」(※2024年に店舗は完全閉店予定)というニュースです。『NOMA』といえば、2003年の開業以来「世界のベストレストラン50」で5度の世界1位を獲得し、ミシュラン三つ星レストランに輝くなど、名実ともに世界一の名をほしいままにしてきたお店です。

閉店の理由は、「食材探しに始まり、何十通りもの試作を通してメニューを組み立てる方法1つとっても、多くの人手を必要とするため、現在の営業形態が維持できなくなった」とされています。その背景には、世界一のレストランで働きたい、経験を積みたいという研修生(見習い)らの過酷な労働条件の問題があったともいわれており、欧州の高級店で見られるこうした慣例への批判が高まってきたことも背景にあるといわれています。これはいわば日本の「修業」にもつながる問題ではないか?と私たちは考えました。

閉店の決断はさまざまな理由や背景があってのことと推測されますが、コロナ禍を通じ、これまでの飲食店の働き方やあり方を改めて考えるきっかけになったといえるでしょう。
クックビズ総研では、このニュースを機に日本の飲食業界に残る「修業」について注目。飲食業界で働く方々に「修業」に対するイメージや想い、実際の体験などをうかがうアンケートを実施。合計455名の方から回答をいただきました。
ご回答いただいたみなさまには、この場をお借りして改めて感謝いたします。ご協力ありがとうございました。

アンケート実施時期:2023年4月末~5月末
調査方法     :インターネット調査
有効回答数    :455
対象者      :求人サイト「cookbiz」の利用ユーザー(飲食従事者、および飲食企業)

■10代~70代まで多様な年齢層が回答。「経営者、管理職の関心が高い」
今回の調査では、全国の10代から70代まで幅広い年齢層の方にご回答いただきました。年代では40代が一番多く33%(150名)、次いで50代の32.7%(149名)が続きます。

回答者の年代_円グラフ

職種(複数回答可)は調理スタッフの265名が最も多く、次いでホールスタッフの87名でした。最も多かった役職(複数回答可)は料理長の87名、次いで会社経営者・役員が57名、店長が54名、マネージャー職が43名。今回の調査では経営者や管理職からの回答が多く、非常に高い関心を持っていることがうかがえました。

回答者の職種_棒グラフ
回答者の役職_棒グラフ

■5割以上の人が修業の経験があると回答
また、修業の経験については、「過去に経験した」と答えた方が59%(268名)、「ない」と答えた方が25%(112名)、「経験中」と答えた方が14%(65名)。ほかに「ずっと」「常に」と回答された方や「修業として意識したことがない」という回答もありました。

修業の経験はありますか?_円グラフ

■修業から連想する言葉は「下積み・見習い」
「修業」という言葉に、みなさんはどんなイメージを持っているのか?「修業から連想される言葉」をうかがってみました。一番多かったのは「下積み・見習い」の132件、次いで「鍛錬」61件、そして「研鑽」「トレーニング・研修」「忍耐力」と続きます。他に「厳しい」「挑戦」といった言葉や「上下関係」といった言葉も見られました。
「パワハラ」や「つらい」といったイメージ、また、「無駄」「時代錯誤」といった言葉はごく少数で、「修業」に対しては比較的前向きなイメージを持っている方が多い印象です。

修業から最も連想される言葉_棒グラフ

■修業期間は「10年未満」が最も多い
修業期間はどれくらいの長さなのか?その期間のイメージについて尋ねてみました。一番多かった回答は「5~9年」の54件、次いで「2~4年」が52件、「10年」が37件。
意外と多かったのは、「引退するまで」「終わりはない」「今なお」「常に」などで、ストイックな回答も見られました。

あなたの修行期間は?_棒グラフ

■「修業は必要」と6割以上の人が回答。
ズバリ、飲食業界に「修業」は必要か?をうかがってみたところ、「分野によっては必要」が38%(173件)、「必要」が38%(172件)ありました。その理由は「調理の基礎や基盤づくりのため」というものが多く、ほかに「自信をつけるため」「創造力を高めるため」「精神の鍛練のため」といった回答も比較的多く見られました。また、「分野によっては必要」という回答は、日本料理や和食、そば、ソムリエといった職種の方々から数多く寄せられました。そのほか、「人それぞれ」「本人次第」「独立を目指すなら」といった本人の意思や目標によっては必要、という回答も多数ありました。一方、「必要なし」という回答は31件でした。全体的に「修業は必要」と考える傾向が強い印象です。

修行は必要だと思いますか?_円グラフ

■修業で得たものは、基礎術、精神力、そして人とのつながり
修業でどのような効果や価があるのかうかがったところ(複数回答可)、一番多かったものは「基礎的な技術が身につく」、次に「精神力が鍛えられる」でした。
また、「その店らしさや流儀が身につく」という回答も多く見られました。修業を通して、企業で掲げる理念など社員の心構えや社風、その店の流儀を身につける効果もあると考える方が多いようです。
そのほか、多かった回答が「師弟や仲間などとの人間関係が築ける」です。経営陣や先輩・後輩、スタッフ同士の関係だけでなく、店舗形態や業態によっては、調理場の担当であっても、修業期間中からお客さまに育ててもらい、信頼関係を築く場となっているようです。

修行で得たものは?_棒グラフ

■寄せられたさまざまな声。「修業は大切なプロセス」
「修業は必要」と考える方がなぜ多いのか?その理由となる声も今回多く寄せられたので一部を抜粋してご紹介します。(コメントのあとは年齢/職種)

  • 「調理技術や衛生管理など現場でしか学べない事があると思います。ポジティブな修業が、今の現場で出来ると良い」(50代/スーパーバイザー)
  • 「修業があったから今があるという実感が自分自身に常にあるため」(50代/経営者)
  • 「企業生存率の低い飲食業界で、廃業の確率を1%でも下げるためには必要だ」(30代/経営者・料理長)
  • 「修業経験のない人と勤務すると根本的な知識の差で衛生面や提供する料理のクオリティ、ホスピタリティに影響するから」(20代/店長)
  • 「修業経験のない人からの指摘やアドバイス、教育は説得力に欠けることが多い。飲食業で上に立ち人を使えるようになるには、自分が一生懸命がんばったと胸を張って言える期間を経験していることが不可欠」(30代/リーダー)
  • 「厳しい事・辛い事が修業だとは思わない。考え悩み、答えを自分で見つける事を気付かせて頂ける事が修業だと思う。そういった時間は必要」(60代/料理長)
  • 「独学では限界が来る。例え料理長になっても他のお店に勉強にいき、自分の引き出しを増やす。この業界は一生修業であると思う」(30代/パティシェ)
  • 「苦労して考える事で人間性が養われ、働く人たちの気持ちも理解でき、近い将来AIに勝る物にもなれると思うから必要」(50代/料理長)
  • 「飲食にはマニュアルがない。料理は技術だし、接客はお客様によって変わり、正解はない。また、その時期のトレンド、好み、流行はすぐに変わり、常に勉強、技術の研鑽が必要だ。修業という気持ちがなく、ただ単に日々の業務を行っているだけでは、生涯飲食業を続けることは無理だと感じる」(30代/ソムリエ)
  • 「インターネット、雑誌、テレビ等で得られない、考える力、簡単に出来ない技術、多くの失敗から想像力が生まれる、その人の未知の魅力が引き出される」(60代/顧問)
  • 「基本を学び、下積みからキャリアアップした際、下積み時代の辛い思いを新卒や新規入社した方々に、同じ思いをして欲しくないという想いが生まれ、改善やアドバイスができるようになる。空気が読めるようになる。上下関係では無く、円滑にチームワークが築ける。一方、キャリアアップしてアグラをかく上司がいる現場は人間関係も良くなく、仕事が回らない現場になっていくと感じる」(50代/チーフ)

■一方で「分野や人によっては修業する必要はない」という意見も多数ありました。しかし、それでも修業に対して否定的ではなかった傾向が見られました。

  • 「専門性の高い分野には必要」(50代/ホテル支配人)
  • 「本人が望んで修業するものだと思う」(40代/料理長)
  • 「技術がなくてもできることも多くなってきているのが実情であり、職人になることだけが飲食業界での成功とは思わない」(40代/経営者)
  • 「基本はいらないと思う。自分は学べたと思うので必要と感じるが、強要するものではないから」(40代/調理・ホールスタッフ)
  • 「必ずしも必要だとは思わないが、基礎の強さと限界になってからの強さには差が生まれていると思う」(40代/店長)
  • 「教科書やマニュアルなどだけでは足りないのが実務。スポーツと同じく、これから極めていこうと志す人の為に、修業する機会と領域は残しておく必要がある」(50代/マネージャー)

アンケート調査を終えて

今回のアンケート調査で見えてきたことは、飲食業界において「修業は必要」と考える人が圧倒的に多かったことです。また、その多くの方が「修業」のイメージを「下積み」や「見習い」と捉えていました。特に寿司や和食、フレンチなど伝統料理の分野に就く方からの回答に見られましたが、そうした伝統料理の料理人に限らず、サービスなど調理以外の職種からも「必要」という声が寄せられました。

それは、飲食業界の現場が単純な労働ではなく、調理や接客はもちろんのこと安全性などの技術と配慮も求められる、人を気遣う人間性が求められる現場だからのようです。実際に修業が必要な理由として、基礎的な技術の獲得だけでなく、衛生面の配慮、人との接し方や振る舞い方、また自身の学びだけでなく、後に続く人たちに教えるためにも必要といった回答が多く見られました。

おいしさを求めるだけでなく、口にいれるものを提供する職業として、飲食業界の方が衛生や安全面に大変気を遣っていることがあらためてうかがえました。その技術や意識を身につけるためにも、現場での修業という期間は必要と考えている方が多い印象です。

しかし、一方で課題も見えてきました。ご回答をいただいた多くの方が「修業は仕事の上で役に立つ」と答えつつも、低賃金、長時間労働、いじめなど、理不尽な扱いを経験したと回答しています。働き方や学び方の面で飲食業界の現場はまだまだ解決しなければならない課題があるのも事実です。飲食業は本来、人を笑顔にできる素晴らしい仕事です。まず料理・サービスを提供する働く人々が笑顔でなければならないと考えます。

クックビズ総研では、飲食業界を働きたい業界ナンバー1を目指して、引き続きさまざまな調査を実施し、課題解決の道筋を探っていきます。


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