着物姿の小田島さんが店前で立っているところ

感覚ではない、「データ活用」で経営改革を

──デジタル技術を飲食店運営に活かすシステムは、ありそうでなかったかもしれません。
「ゑびや大食堂」で実践した取り組みが注目されたのは、これまでに個人店向けの使えるツールがほとんどなかったからです。「ゑびや」はそのシステムを組み立てるところから始めましたが、他の飲食店でも使えるように開発したシステムをパッケージにして販売するのが、株式会社EBILAB(エビラボ)です。

僕がEBILABを立ち上げたのも、「ゑびや大食堂」での実践を通して、飲食店をはじめとするサービス業のサポートになると判断できたからですね。価格的にも個人店が導入しやすい設定にしています。

──デジタル技術は、現場スタッフも知識が必要でしょうか。難しそうにも感じます。
デジタル技術に関しての特別な知識や技術は必要ないと思っています。必要なのはツールで計算式を作ることではなく、ツールが算出したデータを店舗運営に“どう活かすか”を考えることです。

古くからいるスタッフでも「やりたい」という気持ちでどんどん覚えていってくれていますし、前向きに受け入れる人が活躍できる環境が大事だと思います。そういう意味では、気持ちの部分、変化への許容の方が大事ですね。

女性スタッフ2名がタッチパネルを見ながら話し合っている

「データをもとに、どう行動するかは現場に任せています」(小田島さん)

──変わることを受け入れる気持ちということですか。
そうです。まず経営者が正しい数字を理解せずに、感覚や経験だけでやっていくところから変わらないといけません。

──なるほど。
ただ、EBILABが提供するのは、あくまでツールを使ったデータであり、それをもとに実践するのは飲食店の方たちです。ツールを導入したからといって売上がいきなり伸びるわけではないし、課題解決するわけではない。

健康診断と同じだと思ってもらえばいいです。検査をして悪いところがわかったら、そこの治療をしましょうとなりますよね。自社の改革をしていくためのサポート的な役割だと思っています。

──これまでと違う新しい手法は、飲食業界で受け入れられるでしょうか。
僕が「ゑびや」の地元や、講演などで飲食店の経営者の方々と接して感じるのは、行動が早いということ。「じゃあやってみるわ」とすぐに始める人が多い。これまで“きっかけ”がなかっただけで、“きっかけ”さえあれば変わる!という手ごたえはとても感じています。

生産性を上げることで“誰もが幸せになれる”業界へ

──変わっていかないと、と考えている方は多いとは思います。
日本の外食産業は今、人口減少という大きな問題に直面しています。政府の発表によれば、2010年をピークに人口は毎年減少し、この先も減り続けると予測されています。

日本の将来推計人口のグラフ

(出典)総務省ホームページ
2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)

僕が飲食業界の課題だと感じるのは、飲食店の廃業率が他の業種よりもはるかに高いことです。人口減少によってさらに厳しい状況に置かれています。だからこそ、正しい数字を把握して、生産性を上げる経営で乗り越えていかないといけないのが今だと思います。

──それは日本に限らず、世界的な傾向なのでしょうか。
そうではないです。たとえば人口が増加しているアメリカで、飲食企業が経営難というのであれば、まず店舗を増やせばいいわけです。店舗を増やすほどスケールメリットによって売上は上がります。

2000年代までは、日本の飲食店経営もそうでした。でもそのロジックが通じないのが、今ですね。

──飲食業界で働く人の収入が他の業種に比べて低いという状況もずっと続いています。

産業別常用労働者1人平均月間現金給与額 総数のグラフ

(出典)総務省ホームページ
「産業別常用労働者1人平均月間現金給与額 総数(平成29年)」より抜粋加工

飲食業界が他業種と比べて給与水準が低いことから、人材の確保が難しいのもありますね。デジタル技術や知見を持った人材が飲食業界の環境になじむかというと現段階では難しい。だったら、自分たちで育成してやっていくしかないわけです。

ただ僕はピンチをチャンスにする時期と捉えています。しかも大企業ではなく、地方の飲食店が変わっていけるチャンスなんじゃないかと。

──「ゑびや」がその成功例ですね。
「ゑびや」の経営改革で、生産性(※)としては、従業員1人当たりの年間売上が2012年の396万円から、2019年は1,400万円に飛躍的に上がりました。それにともない、給与アップ、残業なし、週休二日制、連続15日の有給休暇取得も実現しています。

※生産性/モノをつくるにあたり生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかという割合。日本は、OECD加盟36カ国中、20位(2018年・日本生産性本部)

──すごいですね。
誰もが普通に暮らしを楽しめるような業界に変えていかないといけないと思います。飲食業界全体がそうなるためにも、データを活かした経営判断の必要性を伝えていきたいですね。

──業界としては、インバウンドへの期待が高まっている傾向があるかと思います。
「ゑびや大食堂」も観光地にありますが、「とにかくインバウンドだ」と、なんでもかんでも海外旅行者向けにシフトしていくのではなく、自社の来客数のうち実際に何%が海外旅行者なのか?しっかりデータで把握することが大切だと思っています。

海外旅行客が自分の店に2%程度しか来ていないのに、店全体を海外旅行客向けにシフトしてしまえば、今度は国内のお客様が離れていくことになってしまいますから。

──正しいデータを活用トライアル&エラーを繰り返し実践することが大事なんですね。
生産性が上がれば、新しい企画を考える時間が取れたり、クリエイティブの機会もより多く持てるし、従業員のモチベーションも上がる。それをまた活かしていけます。そういうサイクルを作っていくことです。

「ゑびや大食堂」に隣接する「ゑびや商店」

「ゑびや大食堂」に隣接する「ゑびや商店」では伊勢の特産品・お土産を販売。2019年には、大阪・大丸心斎橋店にも進出。

──2019年は、大阪・心斎橋に「伊勢 ゑびや商店 大丸心斎橋店」をオープンされました。伊勢のイメージが変わる新感覚のお店です。今後の展開としては?
先ほども言いましたが、僕はゼロベースから始めるのが性に合っているので、また次の新しいことに挑戦していきたいと思っています。それは「ゑびや」のものではないかもしれませんが、今は秘密です(笑)。

編集後記

大手通信会社出身のデータやデジタル技術を駆使する30代。そう聞いてクールな方を想像していましたが、実際に話してみた小田島さんは“熱量の高い人”。「業界を変えたい」その強い使命感は、「みんなが普通に幸せであってほしい」というささやかな願いから始まっています。子供のころの小田島さんに、通貨の仕組みを教えたお祖母さまは、先見の明をお持ちだったに違いありません。

<インタビュー・記事作成:峯林 晶子、写真提供:有限会社ゑびや>