
「てっさ」とはふぐのお刺身のこと。
ふぐには、テトロドトキシンという猛毒が含まれており、「当たったら死ぬ=てっぽう(鉄砲)」という意味から、“てっぽうのおさしみ”を略して「てっさ」と呼ばれるようになったといいます。
そして一言で“ふぐ”と言っても、大きく「フグ目」と分類され、3亜目9科101属で構成、357種類が存在。
料理に使うふぐでも、有名なところでは「トラフグ」、唐揚げなどによく使われる「シロサバフグ」などさまざま。
これらのふぐは、種類によって、身、皮、内臓で食べられる部分が違います。
そして、毒の位置やふぐの種類を正確に理解し、食用に調理・提供することを認められた資格がふぐ調理師免許です。
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ふぐ調理師とは
まずはふぐ調理師の定義を解説します。
ふぐ調理師(ふぐちょうりし)とは、ふぐ条例に基づき都道府県知事が行うふぐ調理師試験において免許を取得した者である。有資格者以外はその業務を行えない業務独占資格である。都道府県によっては、ふぐ包丁師、ふぐ取扱者、ふぐ処理師、ふぐ調理士、ふぐ取扱登録者、ふぐ調理者ともいわれる。以下「ふぐ調理師」で統一する。フグも参照。国家資格ではない。
上記のように明確に表記されている通り、調理師免許のような国家資格ではないので、各都道府県にある自治体で試験の内容や認められる調理の範囲が変わります。
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ふぐ調理師免許とは
前述の通り、国家資格ではなく、都道府県ごとに定められたものです。
なので、各自治体ごとで受験資格や難易度、試験の内容が違い、講習を受けるだけで取り扱いが許可されている都道府県もあります。
試験を行う地域では、受験に合格した場合は“免許”を交付されますが、講習のみで認可される地域では“登録済証”や“受講済証”などが交付されます。
東京都の場合は東京都福祉保健局による試験が行われるので、ふぐ調理師免許となります。
また、都道府県によっては連携しているところもあり、ふぐ調理師免許を取得していれば、他の地域に移住した際に申請だけで認可が降りる場合もあります。
例)埼玉県でふぐ調理師免許を取得している場合、調理師免許を保持し、健康状態が良好であれば、東京都の「ふぐ取扱者受け入れ講習」を受講し、申請すれば東京都ふぐ調理師の免許が与えられる。
今回の記事では、東京都の「ふぐ調理師免許」と大阪府の「ふぐ取り扱い登録者」の2つの資格を保有する著者の実体験をもとに、東京都における資格と認可違い、資格の取得方法と各自治体における許可の取得方法を説明します。
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ふぐ調理師免許とふぐ加工製品取扱届出済票登録の違い
東京都では、ふぐの調理取り扱いにおいて2種類の認可があります。
- ふぐ調理師免許
- ふぐ加工製品取り扱い届け出済票
2つの認可の違いは「除毒作業」が必要かどうか。
ふぐ取り扱いのために必要な「除毒作業」
一般的に市場に出回っているふぐで、“身欠きふぐ”という名称で販売されているふぐがあります。
身欠きとは、ふぐの皮や毒を持つ部分(肝などの内臓が主)を除去する作業のことである。この作業は、後述するふぐ調理師の有資格者が行う。調理師により作業内容や手順はことなるが、基本的には以下の流れで行われる。
- フグの口先を落とす。
- 背ビレ、胸ビレなどを落とす。
- 包丁を入れ、フグの皮を剥く。
- 内臓を取り出し、身の部分を洗う。
上記のように、有資格者により除毒作業を済ませた上で「有毒部位除去済」の表記がされて販売しているふぐであれば、ふぐ調理師免許がなくても、保健所への届け出を行い説明を受ければ提供が可能です。
詳しくは東京福祉保健局「(事業者向け)東京都ふぐの取扱い規制条例の改正の概要について」をご覧ください。
丸ふぐと身欠きふぐの違い
ふぐ調理師免許は、ふぐの毒を処理するための知識と技術を認めるもの。
実際に市場で販売されているものは、“丸ふぐ”と“身欠きふぐ”があります。
- 丸ふぐ=養殖・天然に関わらず内臓などもついた状態でそのまま販売されているもの
- 身欠きふぐ=ふぐの不可食部を全て取り除く「除毒作業」を済ませた状態で箱詰めして販売されているもの
この「除毒作業」をできる能力があるとされているのがふぐ調理師であり、資格の使い分けの認識として以下の分類になります。
- ふぐ調理師免許=丸ふぐの購入・除毒作業を行い、調理・提供できる。
- ふぐ加工製品取り扱い届出済証登録=除毒した身欠きふぐを購入・調理できる
除毒作業があるかないかで、調理師の資格が必要なのか、届出済証が必要になるのかが分かれます。
今回は、「除毒作業」の許可を得られるふぐ調理師免許について、資格取得における必要な情報を書き起こします。
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東京都でふぐ調理師免許を取得するには?
東京都を例に実際の受験内容や流れについて説明します。
東京都では、ふぐ調理師免許を取得するには受験条件を満たし、学科・実技試験に合格する必要があります。
受験資格
受験資格は以下の条件を満たしていること。
- 調理師免許を保有
- ふぐ調理師の資格を保有する者の下でふぐの取り扱いに2年以上従事した者、又は同等以上の経験を有すると知事が認めた者
※詳しくは東京都福祉保健局「ふぐ調理師免許と試験」を参考にしてください。
受験方法&スケジュール
以下、受験までの具体的なスケジュールと必要な手続きです。
毎年スケジュールは違うので、必ず東京都福祉保健局「ふぐ調理師免許と試験」で発表される、その年のスケジュールを参考にしてください。
【4月中旬】スケジュールの詳細発表
4月頃に東京都福祉保健局の「ふぐ調理師免許と試験」にて願書受付のお知らせが流れます。
【5月中旬〜6月中旬】願書の受取&申請
5月中旬から1ヶ月間ほど願書の配布が行われ、6月中に指定された3日間で願書の受け付けが行われます。
願書には、ふぐ免許有資格者の下で働いたことを証明する為のサインが必要なので、願書の受取と申請は同じ日にまとめることはできません。
【7月下旬〜8月初旬】学科&実技試験
試験は学科と実技の2日に分けて行われます。学科試験は受験者全員で午前中に行われますが、実技は順番なので、別日の指定された時間(8時〜17時の間)で行われます。
受験費用
以下、受験〜免許取得にかかる最低限の費用です。
- 受験手数料 19,700円
- 免許発行手数料 4,800円
学科試験対策
東京都食品衛生協会より、ふぐ調理師試験対策の教科書と過去問題集が販売されています。
- 本部及び総合事務所にて直接購入
- 現金書留・銀行振込による配送(配送料500円自己負担)
また、直接購入の際は願書提出時と、東京築地市場「ふぐ除毒所」でも購入できます。
詳しくは東京都食品衛生協会の説明を参考にしてください。
学科試験教材にかかる費用
- ふぐ調理師教本 3,600円
- 過去問題集 1,600円
実技勉強費用
また、別途で実技試験の勉強用にも費用はかかります。
実技試験の勉強は職場の有資格者に教えてもらう方法と、習いに行く方法があります。
勤務先にふぐ調理師免許を保有している先輩がいる場合は、時間をいただき指導していただけば費用は安く済みます。
もし、有資格者の先輩がいても、勤務時間で教えていただくことが難しかったりする場合は、有料のレッスンを受講しに築地市場へ行くことも可能です。
勤務先で有資格者に習う場合
築地市場や鮮魚店などのふぐを取り扱っているお店で「冷凍の練習用トラフグ」と注文すれば、置いてある場合もあります。取り扱っていない場合もありますので、実際に問い合わせてみましょう。
費用
1,500円前後/1本
東京築地市場「ふぐ除毒所」でレッスンを受講
東京築地市場青果部入り口より500mほどいったところにあるふぐ除毒所で試験に向けたレッスンを行っています。ここでは鑑別用のふぐも置いてあります。
費用
- 入会金 6,000円
- 鑑別札 1,500円
- 練習用ふぐ1尾(指導料込) 3,000円
※詳しくは東京築地魚市場ふぐ卸売協同組合 ふぐ除毒所 tel 03-3547-8883 までお問い合わせください。
ふぐ調理師実技模擬試験を受講
東京ふぐ調理連盟が主催で、実際の試験地となる「後藤学園」で本番と同様の模擬試験を受験することが可能です。
実技試験の1〜2週間前に行われるので、緊張しやすい方は受けてみてもいいかもしれません。
下記は平成29年度の紹介記事です。(応募は終了しています)
平成29年度-ふぐ調理師実技模擬試験のお知らせ 東京ふぐ調理連盟
費用
15,900円(税込)/1回
受験内容
実際の試験は池袋にある後藤学園(武蔵野調理師専門学校)にて開催され、試験内容は以下の3つに分かれます。
1日目 学科試験 90分
次の(1)及び(2)を合わせて30問。出題方法は、マークシート方式です。
(1) 東京都ふぐの取扱い規制条例及び同条例施行規則に関すること。
(2) ふぐに関する一般知識出典:ふぐ調理師免許と試験
2日目 鑑別試験 3分・調理試験 20分
(1) ふぐの種類の鑑別(3分間)
出題された実物のふぐ(5種類)の種類名を解答する。(2) 次のア及びイ(合わせて20分間)
ア ふぐの内臓の識別及び毒性の鑑別
ふぐの各部位を「食べられるもの」と「食べられないもの」に区別し、
各部位の名称を用意してある札で解答する。
イ ふぐの処理技術
有毒部位を除去し、ちり材料の調理、皮引き(背皮、腹皮)を行い、
最後に刺身(半身分)を調理する。出典:ふぐ調理師免許と試験
合格〜資格登録〜免許受取
受験に合格した場合は以下の流れになります。
- 受験票に登録した住所に合格通知が届く
- 東京都庁に必要書類を持参・登録申請
- 東京都庁から交付通知が届く
- 指定された日付以降に免許交付を受けに東京都庁へ
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ふぐの取り扱いには各自治体での確認が必要
ここまで、東京都におけるふぐの取り扱いに関して必要な情報を書いてきましたが、各自治体によって試験や講習の内容は全く違います。
当記事の著者は、東京都と大阪府のふぐ資格を持っていますが、同じふぐの取り扱いで「これほどまでに試験や講習の中身が違うのか」と驚いた記憶があります。
大阪府では、資格ではなく「ふぐ取扱登録者」という扱いで、以下のような基準が設けられています。
大阪府では、ふぐ毒による食中毒を防止するため、条例によりふぐの取り扱いについて規制しています。ふぐを販売したり調理したりする営業者は、施設ごとにふぐを取り扱う許可を受けなければなりません。また、その施設には、専任の「ふぐ取扱登録者」を設置することが義務づけられています。本講習会は、当該「ふぐ取扱登録者」になるためのものです。
また、日本で1番厳しいと言われている山口県では受験資格は3年以上有資格者の下で従事した者でなければ受講できないという決まりがあります。
受験資格
学校教育法第57条に規定する高等学校入学資格を有する者で、3年以上ふぐの処理の業務に従事した者。なお、パート又はアルバイトの場合は、原則として週4日以上かつ1日6時間以上の勤務が必要です。
出典:山口県/生活衛生課/ふぐ処理師試験
このように、全国各地で全く取り扱いが違うので、受験もしくは受講を検討する際は必ずお住まいの各自治体にご確認ください。
※2015年にふぐ毒による事故を防ぐため、「一般社団法人 全国ふぐ連盟」が立ち上がりました。
現在は「ふぐ料理専門調理師」の国家資格登録のために活動中とのことです。
除毒済のふぐを調理・販売する際に許可のいらない地域や、東京都のように”ふぐ加工製品取り扱い届出済証登録”の認可を受けることで取り扱えるようになれる地域もあります。
しかし、どの自治体でも絶対に間違いないのは、猛毒であるテトロドトキシンを持つふぐの「除毒作業」は許可なしに行ってはいけないということ。
必ず許可を取ってから取り扱うことが必要です。
除毒されていないまま口に入れてしまうと人の命を殺めるほどに危険な「ふぐ」ですが、白身魚の中でも特段に美味とされ、昔から日本人に愛されてきた高級食材です。
ぜひ正確な知識と技術を取得し、自身の調理技術向上に挑戦してください。
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