飲食業界で独立を考える料理人に送る、10のメッセージ

こんにちは。イタリアン料理人の木下です。
「飲食業界で独立を考える料理人に送る10のメッセージ」、第8回のテーマは、「一人●役のバールは、経験値を貯める最高の場所である」です。

24席のお店を、一人きりで回した怒涛の1ヶ月

店内スタッフは自分一人。
入っているオーダーの魚を焼きながらパスタをボイルしている時にお客様から「すみません」と呼ばれ、同時に店の電話が鳴り、入口からは新規のお客様がご来店。…想像しただけでも大変な状況ですが、一人でお店を切り盛りすると度々ありうることです。

僕は料理の仕事に就いてちょうど10年目の頃、20坪強のテーブル席のみ24席のお店を約一ヶ月間ほど一人で切り盛りしていたことがありました。
ランチタイムのみ知人が一人ヘルプに入ってくれていましたが、それでも手いっぱいでした。

夜の営業が終わるとそれから翌日のランチの仕込みをし、厨房の業務が終わったらフロアの掃除とテーブルのセッティングをし、帰宅する頃には日が昇っていました。
家で仮眠をとったあとはまたすぐ店や仕入れに向かう、そんな日々でした。

Student Sleeping

料理だけは妥協したくなく、同時にきちんとした料理とサービスが提供できるのは2~3組のお客様が限界だったので、ディナータイムは来店を制限して営業していました。

フル回転で動く僕を、お客様が助けてくれた

本来三人で切り盛りしていたお店なので、僕一人になった途端お客様の態度が急変しました。シルバー(カトラリー)を取り替えたりお皿を下げたりワインを注ごうとしたりすると、お客様自身が「こちらでやりますから大丈夫ですよ」と動いてくださいました。

僕はお客様に対し、一人で忙しく動く姿を見せて気を遣わせ、手を煩わせてしまって申し訳ない気持ちになりました。

ビールの追加が欲しくて空になったグラスを持ってこられたお客様がいらっしゃいましたが、厨房で激しく動き回る僕を見て「自分でやっていいですか?」とおっしゃってくださいました。
僕は思い切って「すみません、お願いしてもよろしいでしょうか?」と答えました。

セルフサービスのカタチになってしまいましたが、ビールサーバーから自らビールを注ぐお客様の表情はとても楽しそうでした。

b

お客様とスタッフ、お客様同士に生まれた一体感

気が付けば、必死になって料理をしている僕の姿を見て、お客様同士が協力して助けてくださっていました。
今までほとんど会話したことのなかったお客様からも「一人でよく頑張っていますね」と声をかけていただきました。
お客様同士が自然に繋がりスタッフの一部となって動いてくださることは、申し訳ない気持ちもありましたが、お客様の楽しそうな表情を見ていると結果的に良かったのかな、と思えました。

一人になったことで、スタッフ三人で切り盛りしていた時にはなかったお客様とスタッフとの一体感が生まれました。
また一人ですべての作業をこなすことで、自分の仕事量の限界も分かりました。
そしてそのことが大きな自信となり今後の目標のビジョンをさらに明確に定めることができました。

一人だからこそ気づいた、周りの人への感謝の気持ち

お店は決して一人では成り立ちません。食材やお酒などを持ってきてくれる業者の方、野菜を取り置きしてくれる八百屋のスタッフ、もとよりそれらの生産者の方々、そして何よりも来店してくださるお客様、色んな人と関わって成り立っています。

Human Network

複数のスタッフと働いていた時はどうしても相手に望むことがあり、うまくいかないとイライラしてしまうこともありましたが、自分一人になるとそんな感情はなくなりました。
むしろそれまで一緒に働いていたスタッフやその他関わる全ての人に感謝する気持ちが生まれました。
お客様が退店される時の「ありがとうございました」や電話がかかってきた時の「お電話ありがとうございます」などの日常よく使う感謝の言葉も、単なるルールみたいになりがちですが、それも本心で言えるようになりました。

thank you message

自分のキャパオーバーの店を一人で回すのは勇気のいることです。
お客様に迷惑をかけ不快な思いをさせてしまう可能性もあるので一概に良いこととは言えませんが、僕の人生にとってはとても良い経験となりました。

“人に対する感謝の気持ち”…サービス業をする上で、何より大事な物を手に入れることができました。

次回は3月7日(金曜)に更新です!次回コラムは、「競合店比較でわかった!お客様がレストランを選ぶ基準は、料理じゃない」です。またぜひご覧ください。

<コラム作者紹介>木下誠吾

香川県出身。調理師専門学校卒業後、船上料理人として就職。その後イタリア料理店で、23歳にして料理長を任せられる。レストラン新店立ち上げ、店長兼料理長としてレストラン経営を任せられるも、あえなく閉店。その後、ダイニングバーへ転職し、2010年から「オステリア エ バール インコントロ」の料理長としてオープンから関わり、お店は界隈の人気店として定着。2013年からはイタリアンワイン卸会社へ転職。3年後の独立目指し、今はワインの知識と自身の人間性を高めるべく、毎日仕事に取り組んでいる。家庭では、バリバリ働く妻と4歳の娘がいる。

【連載企画/飲食業界で、独立を考える料理人に送る、10のメッセージ】

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