公邸料理人/左:ジャーラさん、右:篠﨑さん

令和6年8月8日、外務省飯倉公館にて【令和6年度外務大臣表彰式】が行われました。この表彰式は、国際関係の様々な分野で活躍する団体および個人の功績を称えるもので、公邸料理人は17名が選出。表彰された17名の公邸料理人は、優秀かつ貢献度が高いことから「優秀公邸料理長」の称号が認定されました。

世界各国で活躍する公邸料理人は『食の外交官』と呼ばれ、その国の習慣や文化などを重んじながら、”日本食”の魅力を伝える重要な役割を担っています。
クックビズ総研では、優秀公邸料理長に選ばれた方々から届いた”喜びの声”とともに、公邸料理人を志したきっかけや、これから公邸料理人をめざす方に向けたメッセージを、vol.1・vol.2に分けてご紹介します。

出会いは運命。そして母国の未来を輝かせる存在へ:公邸料理人/優秀公邸料理長・ジャーラ ジェイドさん

<プロフィール>

ジャーラさんプロフィール写真
ジャーラ ジェイドさん/1991年生まれ ザンビア共和国出身
地中海のスーパーヨットでのシェフを経験したのち、公邸料理人の道へ。
表彰対象在外公館名(勤務期間):在ザンビア大使館(令和3年1月~令和4年12月)、在オーストリア大使館(令和4年12月~(在職中))

──公邸料理人を志したきっかけを教えてください
公邸料理人との出会いは運命だと思っています。
休暇でザンビアの家族のもとにいたときに、コロナでロックダウンとなり旧勤務地の南フランスに帰れなくなってしまいました。どうしよう…と考えていた時に、ちょうど水内大使のFacebookで「公邸料理人募集中」という投稿を見かけました。
日本大使公邸で働くなら、日本食の知識がないといけませんが、当時の日本食に関する知識はベーシックな寿司だけだったので不安がありました。しかし、大使公邸の料理人になれば日本食についても勉強できるかもしれないと思い応募しました。
働き始めた直後は、大使夫妻が日本食の手ほどきをしてくださり、また日本でも研修の機会をいただき、公邸料理人をしながら日本食を覚えました。
勤務する中で日本食に関する情報をキャッチ・研究し、そうやって得た知識を自ら料理することで実現しようと努力してきました。

──公邸料理人でしか得られない経験や体験を教えてください
公邸料理人になると、まずは日本料理の素晴らしい体験を人々に提供できます。そして、その国の新鮮な旬の食材を、味付けや調理技術で日本料理に取り入れたり応用したりする方法を学ぶことができます。これは非常にエキサイティングな経験だと思います。

──令和6年度外務大臣表彰、優秀公邸料理長に選ばれた際のお気持ちを教えてください
本日の表彰式もさることながら、最初に受賞のお話をいただいた瞬間から、大変名誉なことであり感謝の気持ちでいっぱいです。私のこれまでの努力をきちんと見て、そして認めてくれる人がいたということがとても嬉しかったです。
勉強したい、学んでもっと上手くなりたいという気持ちをずっと持ち続けていて、大使がその気持ちを常にプッシュしてくださいました。そのことが自分にとっては非常に大きな財産になりました。

公邸料理人/優秀公邸料理長・ジャーラ ジェイドさん(中央)と水内大使夫妻

──公邸料理人をめざす方にメッセージをお願いします
様々な料理や文化を学び、体験することを前向きにとらえて、周囲の環境から、創造的なインスピレーションを引き出すことが大切です。
常に各国の文化や生活環境に対して最善を尽くすことができれば、簡単にここに適応できます。あなたの料理の旅におけるあらゆる挑戦を歓迎します。

水内大使よりメッセージ
ザンビアでは、若い女性が未知の世界で挑戦しているのは大変珍しいことです。国民の皆様が栄誉ある賞のことを知ってくだされば、この国に未来があると感じてもらえるはずです。
アフリカの料理人がこれだけ高いレベルの技量・芸術性を発揮してくれていることそのものがサプライズだと感じています。

特別な場所で創意工夫を重ね、広い世界を楽しむこと!:公邸料理人/優秀公邸料理長・篠﨑 泰之さん

<プロフィール>

篠﨑さんプロフィール写真
篠﨑 泰之(しのざき やすゆき)さん/1971年生まれ 栃木県出身
地元の商業高校を卒業後、地元のホテルの和食部門で2年間勤務し、20歳で上京。都内の和食店で修業を積みながら、築地のふぐ実技講習会に通い、東京都ふぐ調理師免許取得。
上京した目的の一つ「東京の旨いものを食べ巡る」を実践して、日本料理だけでなく下町の老舗店、フレンチ、イタリアン、蕎麦などを食べ歩き、時には店主さんから作り方のアドバイスや食材の仕入れ方法などをうかがい吸収。関東近郊、北陸地方の日本酒の酒蔵巡りなども。
表彰対象在外公館名(勤務期間):在ウラジオストク総領事館(平成21年5月~平成23年5月)、在ジンバブエ大使館(平成23年10月~平成26年5月、平成26年6月~平成29年3月)、在モザンビーク大使館(平成29年4月~令和2年2月)、在コンゴ民主共和国大使館(令和2年11月~令和5年12月)

公邸料理人/優秀公邸料理長・篠﨑 泰之さん

──公邸料理人を志したきっかけを教えてください
「一流の料理人になる」と志し、料理人修業を始めて10年が過ぎた頃、ある程度和食のテクニックを身につけ、「ステップアップや独立をするか?」「このまま職人で行くか?」と漠然と考えていました。そのタイミングで常連のお客様であり知人(外務省の方)から公邸料理人のオファーをいただいたことがきっかけです。

当時、勤務していた西麻布のお店には、外国の方も多く来店しており、自然と英会話にも興味を持っていたので「海外に行ってみたい」「海外で自分のスキルを発揮出来るのでは?」という思いが芽生えていました。
西麻布と言う場所柄もあってか、様々な業種・職種に就く、魅力的かつ尊敬の念を抱く常連のお客様から「若い時に見聞を広げると良いよ」「チャンスは自分で掴み取れ」「板さんの料理が食べられなく寂しくなるけど、日本料理を世界に広めてほしい」など肯定的なご意見をいただいたことも、海外に飛び出す大きな後押しになったと思います。

他方、当時の親方、先輩方には人員調整でご迷惑をお掛けしてしまいましたが、快く送り出してくださり感謝してもしきれません。

──海外赴任への不安はなかったのでしょうか?
当時、ニューヨークやヨーロッパなどで働いている友人から給与の不払いなどの話も聞いていました。しかし公邸料理人は外務省から給与が保障されるということで、その点に関しての心配はなく、住居も大使公邸内です。あらゆる面で安心・安全ということもあって親も心配せずに出してくれました。
それからはこの仕事にハマってしまって(笑)。結婚前からこのような働き方をしてるので、結婚後も単身赴任です。そのため、娘たちともなかなか会えていなかったのですが、現在は1年ほど日本に戻ってきているので、娘たちにおいしい料理を作るなど家族の時間を楽しんでいます。

──公邸料理人として心掛けてきたことは何ですか?
まずは公館長ご夫妻と良好な関係を築いていくこと。
任地大使館員、現地職員、公邸職員とも良好な関係を築き、任地の環境に早く慣れることも大切です。食材確保には常にアンテナを張り、調達出来ない野菜類は自家栽培して収穫するなど創意工夫を繰り返すことも、この仕事ならではですね。
公邸会食、レセプションは華やかで日本料理らしく、ゲストのリクエスト(食事制限等)に細かく対応。日々の公館長の食事はバランス良く、野菜を多めにするなどを意識していました。
あとは、料理人自身も任期中は任地で何か娯楽(リラクゼーション)を見つけ、目一杯楽しむことです。
体調面で言うと、特にアフリカ諸国に赴任する際には数種類のワクチン接種が必要となります。事前準備、感染症予防にも万全を期すことですね。

──公邸料理人でしか得られない経験や体験を教えてください
その国が持つ風土、習慣、食生活等々をダイレクトに感じられること。各国の要人、日本からの要人(総理大臣等)や、各分野のスペシャリストの方々とお会い出来ることは、日常では得られない経験です。
ウラジオストク総領事公邸ではサントリー名誉チーフブレンダーの輿水精一さんにウイスキーと味噌、乳製品のマリアージュについての話を伺い、新しいメニューの参考になったことも貴重な経験となりました。

特別な場所であり、さらに自分よりも腕のいい料理人もたくさんいる中で、せっかくつかんだチャンスです。アフリカへの赴任が長いのですが、当時は日本食の認知度は低く大変なこともたくさんありました。今でこそ日本食がブームとなり広く知られるようになりましたが、赴任当時は王道メニューを出しても喜ばれない時もあって、崩しながらご提供するなど工夫が必要でした。
現地の文化、食生活にふれることも好きですね。国によっては使用できる食材に制限があって、思うような日本食材がなかなか手に入らず難しかったんです。10年ほど前からは冷凍物も手に入るようになりましたので料理の幅も広がりました。
他には、ニュージーランドへの赴任の際、器も持参して日本料理を提供したり、七輪陶芸という七輪で作ったぐい飲みをゲストにプレゼントしたりしました。
ひとつひとつが貴重な経験であり良い思い出です。

──令和6年度外務大臣表彰、優秀公邸料理長に選ばれた際のお気持ちを教えてください
長きに渡り、公邸料理人を勤めてきたご褒美でしょうか、2度目の受賞に感無量です。
今回、ご推薦いただいた南大使に深く感謝いたします。「優秀公邸料理長」表彰に携わっていただいた皆様、目には見えない家族のサポートに感謝いたします。旧友、これまで在外公館でお世話になっている方々からも祝福の言葉をいただき大変嬉しいです。
飯倉公館での式典も素晴らしい体験でした。

──公邸料理人をめざす方にメッセージをお願いします
はじめは言葉の壁はもちろん、考え方の違いに戸惑い、国によっては差別的な振る舞いを受けることもあるかもしれません。こちらから異文化に飛び込むからには覚悟が必要だと思います。
スーパーマーケットの買い物などは外国語を発さずに完了しますが、ローカル言語で話し掛けると現地の方との距離がグッと縮まります。海外に行って日本の良さを再認識する事も大いにあります。
だからこそ、”狭い調理場”に留まらず、広い世界を楽しみましょう!

令和6年度「優秀公邸料理長」受賞者リスト

大臣官房在外公館課

表彰対象者(17名/50音順/敬称略)

公邸料理人氏名 専門 表彰対象在外公館名 勤務期間 現勤務先
天津 敏也 洋食 在アルバニア大使館 令和2年11月~令和5年11月
井口 啓裕 洋食 軍縮会議日本政府代表部 令和2年1月~令和5年12月 WINSTUB 4416
石井 徹 和食 在タイ大使館 令和元年12月~令和6年3月 在タイ大使公邸料理人
石森 秀明 和食 在スロバキア大使館 令和2年7月~令和5年10月 グランドプリンスホテル新高輪 和食 清水
井上 博幸 ※ 洋食 在ベトナム大使館 平成20年2月~平成22年9月
平成26年3月~平成28年10月
平成28年11月~令和6年5月
在ベトナム大使公邸料理人
大川 悠太 洋食 在イスタンブール総領事館 平成30年10月~令和4年1月 株式会社帝国ホテル
大津 尚也 和食 在メルボルン総領事館 令和3年1月~(在職中) 在メルボルン総領事公邸料理人
岡本 純 洋食 在ベナン大使館 令和2年7月~令和5年9月 LE CONCEPT Menu Super Chef
川𠩤崎 幸一 和食 在ドイツ大使館 令和2年11月~(在職中) 在ドイツ大使公邸料理人
佐々木 民惠 洋食 在モロッコ大使館 令和2年1月~令和4年1月
令和4年2月~(在職中)
在モロッコ大使公邸料理人
ジャーラ ジェイド 和食 在ザンビア大使館
在オーストリア大使館
令和3年1月~令和4年12月
令和4年12月~(在職中)
在オーストリア大使公邸料理人
鎮目 和雄 洋食 在ロシア大使館 平成27年12月~令和5年12月 株式会社帝国ホテル
篠﨑 泰之 ※ 和食 在ウラジオストク総領事館
在ジンバブエ大使館
 
在モザンビーク大使館
在コンゴ民主共和国大使館
平成21年5月~平成23年5月
平成23年10月~平成26年5月
平成26年6月~平成29年3月
平成29年4月~令和2年2月
令和2年11月~令和5年12月
高野 直幸 和食 在ジッダ総領事館 令和3年4月~令和5年10月 ホテルニッコーグアム
中村 篤史 洋食 在モザンビーク大使館 令和2年2月~令和6年1月
堀池 正治 和食 在ロシア大使館 平成27年12月~令和5年12月
渡邉 聡志 和食 在中華人民共和国大使館 令和2年12月~令和5年12月 株式会社ワイズテーブルコーポレーション XEX atago 「An」

※長期間にわたり公邸料理人を務めたことに伴う再表彰者

クックビズ総研編集部より

表彰式直後に”喜びの声”を届けてくださった4名は、現在もご自身の夢に向かってご多忙な日々を送っておられます。さまざまな経験を積みながら食の外交官として活躍されている姿は、同じ日本人として誇りに思います。
優秀公邸料理長の称号は、外交活動への貢献を称えるとともに、優秀な公邸料理人の確保や育成といった大きな役割を担うこととなり、料理人としてのさらなる活躍が期待されています。
クックビズ総研編集部では、受賞された17名の料理人のますますの飛躍を願うとともに、飲食業界の明るい未来を応援していきます!

令和6年度外務大臣表彰式

外務省提供:令和6年度外務大臣表彰式

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