令和5年8月22日、外務省飯倉公館にて【令和5年度外務大臣表彰式】が行われました。この表彰式は、国際関係の様々な分野で活躍する団体および個人の功績を称えるもので、公邸料理人11名も選出。表彰された11名の公邸料理人は、優秀かつ貢献度が高いことから「優秀公邸料理長」の称号が認定されました。
世界各国で活躍する公邸料理人は『食の外交官』と呼ばれ、その国の習慣や文化などを重んじながら、”日本食”の魅力を伝える重要な役割を担っています。
クックビズ総研では、優秀公邸料理長に選ばれた方々から届いた”喜びの声”とともに、公邸料理人を志したきっかけや、これから公邸料理人をめざす方に向けたメッセージを、vol.1・vol.2に分けてご紹介します。
▼vol.1はこちらからご覧ください
https://cookbiz.jp/soken/career/chef_3
ゲストのバックグラウンドと日本料理のマリアージュを:公邸料理人/優秀公邸料理長・宮原 優さん
▼プロフィール
宮原 優(みやはら ゆたか)さん/1974年7月18日生まれ 京都府出身
1993年~ 阪急阪神ホテルズ 統括シェフ
2019年~ 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使 公邸料理人 現職
──公邸料理人を志したきっかけを教えてください
私自身、それまでは海外での経験がなく、世界の文化などを肌で感じて視野を広げたい、いつか海外で経験を積みたいと考えていたのが、公邸料理人に登録したきっかけです。
──公邸料理人として心掛けてきたことは何ですか?
ゲストのバックグラウンドと日本とのマリアージュです。世界に日本料理をアピールするとともに、料理の融合をテーマに取り組んできました。
また、ゲストのバックグラウンドに関しては、時折ゲストの出身国の名物料理をモチーフにした料理を提供しました。ゲストの方から「自国を懐かしく感じられてよかった」とお褒めの言葉をいただけたのは嬉しかったですね。
会食では、会議のようなお話があっての料理となりますが、歓送迎会などではゲストのバックグラウンドを踏まえた料理を作ります。和と洋の融合をおこなうことで、少しでも会食料理に興味や驚きを持っていただけるようにと考えながら日々取り組んでいます。
──公邸料理人でしか得られない経験や体験はありますか?
海外の食文化に触れ合いながら、その一つひとつの会食を作り上げていく楽しみは、公邸料理人ならではの経験です。
──令和5年度の外務大臣表彰、優秀公邸料理長に選ばれた際のお気持ちを教えてください
今回優秀公邸料理長に就くにあたって、さまざまな方からのサポートがあっての事だと実感しています。皆さんには感謝しかないです。海外で働くことへの戸惑いもありましたが、それも含めて私の財産となり、その結果、この様な賞をいただき嬉しく思っております。
──公邸料理人をめざす方にメッセージをお願いします
言葉の壁や文化の違いに戸惑いがありますが大丈夫です。それを思いっきり楽しんで、料理に向き合ってください。料理人としての引き出しが増えるはずです。
公邸料理人は外国と日本との架け橋:公邸料理人/優秀公邸料理長・能登谷 千治さん
▼プロフィール
能登谷 千治(のとや ちはる)さん/1970年7月11日生まれ 北海道札幌市出身
1989年~ セゾングループ西洋フードシステムズ入社
1996年~ 株式会社シンエイ入社
銀座、築地をはじめ東京都内日本料理店に勤務
日本料理木挽き 銀座 花蝶本店 鮨割烹遊膳本店 店長兼料理長 他
1998年~ 在ギリシャ大使 公邸料理人
2018年~ 在メキシコ大使 公邸料理人
2021年~ 在ラトビア大使 公邸料理人 現職
──公邸料理人を志したきっかけを教えてください
調理師になる前のことですが、公邸料理人の仕事を取材した番組を見たのがきっかけです。当時は専門学校を卒業したホテルの調理師が公邸料理人に登録する方が多かったように思いますし、公邸料理人の仕事を探すすべもなく、そのことをすっかり忘れて仕事に追われていました。
勤務先でお店を任されていた頃、よく外務省の方がお客様としてお越しくださっていたんです。偶然にも公邸料理人のお話になり、憧れていた当時を思い出しました。
ですが、当時の職場環境もありますし、周りに迷惑も掛けられないな、憧れだけでは簡単にはいかないなと思い、すぐには応募もできず仕事を続けていました。
自分なりに仕事をこなせるようになった頃、幾度か海外へ誘われていたこともあり国際交流サービス協会を紹介していただきました。当時の大使夫妻と面談を経て、渡航を思い切る事ができました。
──公邸料理人として心掛けてきたことは何ですか?
食文化を通して日本を知っていただくためのツールになれるよう、心をこめた”おもてなし”をしています。料理人はあくまでも裏方ですので、海外経験の長い大使夫妻から色々なことを教わり、大使、大使夫人の意向をくみ取りながらスムーズな公邸会食になるように専念しています。少人数から大人数など、その会食に合わせて買物に行き、食材を見て献立を考える事を心掛けています。
来訪されるゲストの中には、海外の食を熟知している方であれども、日本で食したことがない方もいらっしゃいます。国によっては食べられないもの、個人によっても食事制限などがあります。さまざまなゲストに興味をもっていただけるように、少し崩したフュージョン的な料理をお出しすることもあります。
海外には、日本料理に似た独自の”Washoku”がまだまだ多く、丁寧に日本料理を作ったとしても食べ方すら知られていないこともあります。まずは食していただくこと、その国の食材を活かし、見た目にも馴染みのある料理へアレンジすることも考慮しています。
日本のように四季のない国もありますので、日本的な野菜や香草を育て、山菜、花や飾り葉、かいしきを摘みに庭に出たり。口取りや前菜、折敷の盛り付けにも色や香り、見た目や食感などを創造し、日本の食文化を織り込んでいます。
日本との架け橋になれればと、その国の国旗をソースで表現するなど工夫を凝らすこともあります。巨大なサボテンを収穫させていただき、無数のトゲを取って鮨や料理を盛り付けしたりもしました。
その国のお客様や海外のゲストが安心して食べられる料理の中に、いろいろな日本をちりばめられるように心掛けて創るようにしています。
──公邸料理人でしか得られない経験や体験はありますか?
その国、その土地での調理方法や、美味しい家庭料理、生活や伝統、食文化に触れることができます。
各国のシェフや他国の公邸料理人と交流する機会もあり、自分なりに応用もしています。知らないことばかりで楽しいですね!場合によっては講演やワークショップ形式での調理、ビデオ撮影などもこなしますし、国によっては500人、600人のレセプションの調理も手掛けるなど貴重な経験をしています。
──令和5年度の外務大臣表彰、優秀公邸料理長に選ばれた際のお気持ちを教えてください
高瀬大使夫妻には常日頃から気遣っていただき本当に感謝しております。日本にいる家族、大使館員の方々、現地職員や公邸職員、庭師、警備員、ドライバー、すべての方々にお世話になりつつ仕事が出来ていることを再確認できました。ありがとうございます。
──公邸料理人をめざす方にメッセージをお願いします
「本物を作ろう」とかいろいろ言う人はいますが、まずは美味しいものを作ることを目指すのが良いと思います。環境、食材、言葉の問題、つまずくことはあります。ただ、たくさんのことを大使と相談しながら、ゲストに合わせた調理をすることは日々勉強になります。そういった面でも、料理人には最高の場所なのかもしれません。
一概に憧れだけでできるものではありませんが、選ばれた以上、柔軟なアイデアで好奇心旺盛に、たくさんの日本食文化を紹介していけると良いですね。
大臣官房在外公館課
表彰対象者(11名/50音順/敬称略)
公邸料理人氏名 | 専門 | 表彰対象在外公館名 | 勤務時間 | 現勤務先 |
伊部 友之 | 洋食 | 在カメルーン大使館 | 平成30年10月〜令和3年11月 | |
岩田 大 | 洋食 | 在スウェーデン大使館 在シンガポール大使館 |
平成27年10月〜平成30年10月 令和3年11月〜令和4年10月 |
|
岩坪 貢範 | 洋食 | 在バンクーバー総領事館 在バチカン大使館 |
平成25年3月〜平成28年3月 令和2年7月〜令和5年1月 |
|
白石 浩司 | 和食 | 在ボリビア大使館 | 令和2年6月〜令和4年11月 | 在ボリビア大使公邸料理人 |
鈴木 淳 | 洋食 | 在南アフリカ共和国大使館 | 令和元年7月〜令和4年12月 | 在アイルランド大使公邸料理人 |
多田 政治 ※ | 和食 | 在インドネシア大使館 在スペイン大使館 |
平成23年5月〜平成26年9月 平成26年10月〜平成28年7月 平成28年7月〜令和元年10月 令和元年11月〜令和4年10月 |
経済協力開発機構日本政府代表部大使公邸料理人 |
中塚 哲次 | 和食 | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 | 令和元年12月〜(在職中) | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使公邸料理人 |
野田 直希(故人) | 和食 | 在マルセイユ総領事館 | 令和3年2月〜令和5年5月 | |
能登谷 千治 | 和食 | 在メキシコ大使館 在ラトビア大使館 |
平成30年11月〜令和3年11月 令和4年1月〜(在職中) |
在ラトビア大使公邸料理人 |
美馬 剛志 | 和食 | 在ロサンゼルス総領事館 | 令和元年8月〜令和4年8月 | 恵比寿しげ田(東京都渋谷区恵比寿) |
宮原 優 | 洋食 | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 | 令和元年12月〜(在職中) | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使公邸料理人 |
※長期間にわたり公邸料理人を務めたことに伴う再表彰者
クックビズ総研編集部より
当記事のために”喜びの声”を届けてくださった4名は、現在も世界各国で公邸料理人としてご多忙な日々を送っておられます。さまざまな経験を積みながら食の外交官として活躍されている姿は、同じ日本人として誇りに思います。
優秀公邸料理長の称号は、外交活動への貢献を称えるとともに、優秀な公邸料理人の確保や育成といった大きな役割を担うこととなり、さらなる活躍が期待されています。
クックビズ総研編集部では、受賞された11名の料理人のさらなる飛躍を願うとともに、飲食業界の明るい未来を応援していきます!
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