令和5年8月22日、外務省飯倉公館にて【令和5年度外務大臣表彰式】が行われました。この表彰式は、国際関係の様々な分野で活躍する団体および個人の功績を称えるもので、公邸料理人11名も選出。表彰された11名の公邸料理人は、優秀かつ貢献度が高いことから「優秀公邸料理長」の称号が認定されました。
世界各国で活躍する公邸料理人は『食の外交官』と呼ばれ、その国の習慣や文化などを重んじながら、”日本食”の魅力を伝える重要な役割を担っています。
クックビズ総研では、優秀公邸料理長に選ばれた方々から届いた”喜びの声”とともに、公邸料理人を志したきっかけや、これから公邸料理人をめざす方に向けたメッセージを、vol.1・vol.2に分けてご紹介します。
▼vol.2はこちらからご覧ください
https://cookbiz.jp/soken/career/chef_4
大使夫妻、要人、ゲストに料理を食べていただける喜び:公邸料理人/優秀公邸料理長・多田 政治さん
▼プロフィール
多田 政治(ただ まさはる)さん/1975年8月31日生まれ 兵庫県出身
1998〜1999年 大阪あべの辻調理師専門学校
1999年 株式会社灘萬 調理スタッフ
1999〜2003年 大阪難波 京料理木田 調理スタッフ
2003〜2011年 たん熊北店二子玉川店 調理スタッフ
2011〜2014年 在インドネシア大使 公邸料理人
2014〜2022年 在スペイン大使 公邸料理人
2022年〜 OECD日本政府代表部大使 公邸料理人 現職
──公邸料理人を志したきっかけを教えてください
たん熊北店二子玉川店で勤務していた時に、公邸料理人を経験したことのある先輩方の話を聞きました。大使夫妻のプライベートの食事から、数百名が参加するレセプションの料理まで、全て1人でメニューや構成を考えて作る、やりがいのある仕事だと知りました。
その話を聞いて、いつかは私自身も海外に渡り、公邸料理人に挑戦したいと思ったのがきっかけです。
──公邸料理人として心掛けてきたことは何ですか?
事前にゲストの情報がある場合は、食材や調理法、味の濃淡など、その方の好みに添った献立を作るようにしています。さらに、色彩や盛り付けにも気を遣い、日本料理が織りなす四季を五感で感じていただけるよう心がけてきました。
また、基本的に料理人は1人ですので、自己の体調管理も大事だと考えています。
──公邸料理人でしか得られない経験や体験はありますか?
同じ野菜であっても、国が違えば味や食感が違います。筍、牛蒡や魚貝類など日本では当たり前のように手に入る食材も、海外では手に入らないことがあります。
そのような時は、代用として使える食材を探したり、急遽献立を変えなければいけません。
その中で、経験と知恵を振り絞って作った料理を『美味しかった』と言ってもらえた時は、公邸料理人としての喜びを感じます。
また、テレビでしか見られないような要人に、私の料理を召し上がっていただくというのは本当に光栄な事だと実感しています。
──令和5年度の外務大臣表彰、優秀公邸料理長に選ばれた際のお気持ちを教えてください
2度も外務大臣表彰を受賞させていただき、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。この受賞は大使夫妻、館員及び現地職員の方々、取引先業者、家族、そして僕を支えてくれた全ての方のおかげですので、感謝の気持ちを忘れずに精進していきたいと思っています。
──公邸料理人をめざす方にメッセージをお願いします
海外旅行で行くのと、実際その国に住んでみるのとでは全く違う世界が広がっています。言葉の心配があるかもしれませんが、実際は問題ありません。食材を指さしてジェスチャーで伝えると何とかなるものです。
普段は遠くて行けない市場やレストランへは、休日に足を運ぶことで知識やスキルアップに必ず役に立ちます。そういった日常から得るものは多く、公邸料理人としての経験が素晴らしい未来につながっていきます。
海外で自分の腕をふるってみたいという気持ちがあれば、思いきって応募してみて下さい!
ゲストの国柄や文化、宗教に配慮した料理を学び、作る貴重な経験:公邸料理人/優秀公邸料理長・鈴木 淳さん
▼プロフィール
鈴木 淳(すずき じゅん)さん/1986年3月7日生まれ 北海道札幌市出身
2006年~ CASTOR キッチンスタッフ兼カフェスタッフ
2007~2008年 ランブイエ キッチンスタッフ
2008~2019年 Osteria Vincero キッチンスタッフ
2019~2022年 在南アフリカ共和国大使 公邸料理人
2023年~ 在アイルランド大使 公邸料理人 現職
──公邸料理人を志したきっかけを教えてください
自分の店を開業しようと考えていたところ、大使と私の共通の知人から「大使が公邸料理人を探しているが、興味ないか?」と声をかけていただいたのがきっかけです。
この時はどこの国で働くのかオフレコだったため教えていただけませんでしたが、大使と対面でお会いした際に、勤務地が南アフリカだと伝えられました。世界で治安が悪い国ランキング上位国なのか…と心配しましたが、それよりも普通に生活していたら絶対に行くことがない国だと思ったんですね。仕事内容も面白そうで、大使の人柄も良く、信頼できると確信し、二つ返事で依頼を引き受けました。
──公邸料理人として心掛けてきたことは何ですか?
私の作る料理はフレンチ、イタリアン、分子ガストロノミーがベースです。そこに日本のエッセンスを加えることで、日本料理を食べ慣れていないゲストにも抵抗なく楽しんでいただけるような料理を心掛けてきました。
だからこそ使用する調味料等にもこだわっています。例えば「やまつ辻田」さんの石臼挽き朝倉粉山椒は、とてもインパクトのある香りと味です。これには、海外のゲストだけではなく日本からのゲストも、山椒のもつポテンシャルの高さに驚かれています。
──公邸料理人でしか得られない経験や体験はありますか?
日本を含めた各国の大使や政府の要人、大企業の重役等、なかなかお会いできないようなゲストに料理を提供できるのは公邸料理人だからこそです。
また、様々なゲストが訪れるため、ベジタリアンやヴィーガン、ペスカタリアン、ハラール対応等、ゲストの国柄や宗教等を考慮した料理を作る経験もできます。こういった貴重な体験も公邸料理人ならではだと思っています。
──令和5年度の外務大臣表彰、優秀公邸料理長に選ばれた際のお気持ちを教えてください
まず初めに、いつもサポートしてくれている妻、そして、お世話になっている大使に感謝の気持ちを伝えたいと思います。
今年度の優秀公邸料理長に選ばれたのは周りからのサポートのおかげです。これからも、沢山のゲストに喜ばれる料理を作れるよう精進していきます。
──公邸料理人をめざす方にメッセージをお願いします
公邸料理人という職業で一番関わりのある大使夫妻との相性は事前に確認するといいと思います。一緒に生活をするため、相性が良くないと任期の2〜3年間は辛いかもしれません。後々にトラブルにならないよう、自身の経験や料理スタイルなど、きちんとすり合わせをした方がいいと思います。
仕事内容としては、日々の会食はもちろん、大規模イベントでの食事も基本的に1人で準備することになります。とても大変ですが、1人で大人数の食事を用意するという機会はあまりないので、これも良い経験になります。
食材の調達に関しては、仕入れが安定していないなど国によっては大変なこともありますが、南アフリカでは日本で見かけないさまざまな食材と出会い、実際に調理することでとても勉強になりました。
言葉についても、私自身すごく英語が得意というわけではありません。必要最低限の言語習得は必要ですが、いざ現地で生活をしてみると意外と何とかなるものです。
言語について二の足を踏んでいる方は、勇気を出して最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
公邸料理人という職業は日本では体験できないような様々な困難と向き合う職業だと思います。しかし、その困難を乗り越えた後、とても成長できる仕事だと思います。
大臣官房在外公館課
表彰対象者(11名/50音順/敬称略)
公邸料理人氏名 | 専門 | 表彰対象在外公館名 | 勤務期間 | 現勤務先 |
伊部 友之 | 洋食 | 在カメルーン大使館 | 平成30年10月〜令和3年11月 | |
岩田 大 | 洋食 | 在スウェーデン大使館 在シンガポール大使館 |
平成27年10月〜平成30年10月 令和3年11月〜令和4年10月 |
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岩坪 貢範 | 洋食 | 在バンクーバー総領事館 在バチカン大使館 |
平成25年3月〜平成28年3月 令和2年7月〜令和5年1月 |
|
白石 浩司 | 和食 | 在ボリビア大使館 | 令和2年6月〜令和4年11月 | 在ボリビア大使公邸料理人 |
鈴木 淳 | 洋食 | 在南アフリカ共和国大使館 | 令和元年7月〜令和4年12月 | 在アイルランド大使公邸料理人 |
多田 政治 ※ | 和食 | 在インドネシア大使館 在スペイン大使館 |
平成23年5月〜平成26年9月 平成26年10月〜平成28年7月 平成28年7月〜令和元年10月 令和元年11月〜令和4年10月 |
経済協力開発機構日本政府代表部大使公邸料理人 |
中塚 哲次 | 和食 | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 | 令和元年12月〜(在職中) | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使公邸料理人 |
野田 直希(故人) | 和食 | 在マルセイユ総領事館 | 令和3年2月〜令和5年5月 | |
能登谷 千治 | 和食 | 在メキシコ大使館 在ラトビア大使館 |
平成30年11月〜令和3年11月 令和4年1月〜(在職中) |
在ラトビア大使公邸料理人 |
美馬 剛志 | 和食 | 在ロサンゼルス総領事館 | 令和元年8月〜令和4年8月 | 恵比寿しげ田(東京都渋谷区恵比寿) |
宮原 優 | 洋食 | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 | 令和元年12月〜(在職中) | 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使公邸料理人 |
※長期間にわたり公邸料理人を務めたことに伴う再表彰者
クックビズ総研編集部より
当記事のために”喜びの声”を届けてくださった4名は、現在も世界各国で公邸料理人としてご多忙な日々を送っておられます。さまざまな経験を積みながら食の外交官として活躍されている姿は、同じ日本人として誇りに思います。
優秀公邸料理長の称号は、外交活動への貢献を称えるとともに、優秀な公邸料理人の確保や育成といった大きな役割を担うこととなり、さらなる活躍が期待されています。
クックビズ総研編集部では、受賞された11名の料理人のさらなる飛躍を願うとともに、飲食業界の明るい未来を応援していきます!
▼vol.2はこちらからご覧ください
https://cookbiz.jp/soken/career/chef_4
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