日本外交の最前線で働く公邸料理人が「食の外交官」と呼ばれているのはご存知ですか?
大使や総領事の公邸が舞台となり、料理で日本の外交活動を側面的に支援するという重要な役割を担うのが公邸料理人です。現在、世界各国で活躍している公邸料理人は200名以上。先進国から発展途上国まで、その国の習慣や文化などを重んじながら、”日本食”の魅力を伝えています。
現在、一般社団法人 国際交流サービス協会(以下:国際交流サービス協会)にて公邸料理人を広く募集しています。当記事では、ベールに包まれている公邸料理人の仕事内容やプライベートのこと、募集要項、外務省と先輩公邸料理人のインタビュー、登録の流れなどを詳しく紹介しています。
料理人としてさらにスキルアップしたい、世界に挑戦したいという向上心をお持ちの方は、ぜひご一読ください。
「食の外交官」公邸料理人とは
今回公邸料理人を募集するにあたり、外務省在外公館課 吉田課長にインタビューを実施。”料理”という側面での外交の重要性、公邸料理人に求めることなどをお話しいただきました。
外務省在外公館課 吉田課長より公邸料理人とは、日本と世界各国の架け橋となる「食の外交官」です。大使館専属の料理人として、大使夫妻の食事、ゲストを招いた会食やパーティー料理を作り、日本の外交活動を「料理」で支えるやりがいのある仕事です。公邸料理人の赴任先は世界に150カ国(200ポスト)以上あり、多様なバックグラウンドの料理人が求められています。
世界中で日本食ブームが起こり、パリ、ニューヨークやロンドンなどの主要都市では、その国の大統領や著名人を公邸に招くこともあり、ゲストからもその地域で最高レベルの“和食”を提供することが期待されています。食材や食器など細部にまでこだわり、日本の伝統的な“和食”を提供することが求められています。
一方で、アフリカ大陸など、まだまだ日本食が定着していない地域もあります。そうした地域では、日本にはない現地の食材と“和食”を融合した、いわゆるフュージョン料理がゲストに感動を与えることもあります。
例えば、市内で魚が手に入らない地域では、地元の漁師と直接交渉して新鮮な魚を買い、日本の“寿司”や“てんぷら”を振る舞うこともあります。ゲストが初めて口にする公邸での料理が日本食を普及させるきっかけとなったり、その国の新しい食文化に繋がることも期待されます。「公邸料理人」と聞くとハードルが高く感じるかもしれませんが、難しい決まりがあるわけではなく、若手からベテランまで幅広い層の料理人が様々な地域で活躍しています。日本とは異なる慣習や文化、限られた食材の中で演出した料理人ならではの「おもてなし」の心が日本と世界の架け橋となります。
海外の文化に触れ公邸料理人としての経験を積むことは、料理人として大きな財産になることは間違いありません。
少しでも興味をお持ちいただけましたら、ぜひこの機会にご登録ください。
■応募資格
1.調理師免許を取得していること。
2.調理師免許を未取得の場合は、調理従事歴5年以上の方。
3.応募にあたっての年齢制限はありません。
■仕事内容
公邸において公的な設宴料理(和・洋ともコース料理が基本)及び公館長ご家族への私的料理をお願いします。原則としてメニュー作成から買出し・調理、在庫管理まで行います。
■給与・賞与・昇給
公館長との面接で決定。年齢・経験・勤務地などが考慮されます。
支度金として、赴任及び任期満了帰国時、準備に要する諸費用として給与半月分がそれぞれ支払われます。
■赴任国:世界150カ国(200ポスト)以上
■契約期間
公館長の任期に準じます。(通常2~3年です)
■旅費
往復航空運賃が支給されます。ただし自己都合による中途退職または私的一時帰国の場合を除きます。
■ビザ・旅券
公邸料理人としてのパスポートは一般旅券ではなく公用旅券となります。その際の手続きは国際交流サービス協会が行います。
赴任前に公館長と公邸料理人との間で雇用契約(私契約)を締結します。同契約は日本国政府(外務省、大使館、総領事館)、あるいは、国際交流サービス協会、クックビズ株式会社との間での契約ではありませんので、面接時に両者で詳細を話し合い、決定するという流れになります。
世界に羽ばたく食の外交官!公邸料理人のReal voice
今回、公邸料理人を募集するにあたり、実際に世界各国へ赴き、活躍された3名に取材を行いました。仕事のこと、現地での暮らし、経験したことを中心に伺っていますので、併せてご紹介します。
天野 明幸さん(1981年生まれ・山梨県出身)
赴任歴:カタール、ユネスコ日本政府代表部(フランス)、チリ、エチオピア
■現地の子ども達に伝えた「食の素晴らしさ」
公邸料理人になることを決意したのは、海外で挑戦したいという気持ちを持ち続け、更に強くなっていたためです。
赴任に関して少しは不安を持っていましたが、赴任してからは不安よりも異国の地で仕事が出来る喜びの方が勝り、自然に払拭されていたように感じます。
公邸では、普段の大使夫妻のお食事はもちろんのこと、会食で招かれた赴任先の要人の方々に対する「おもてなし」を心がけていました。日本料理のデモンストレーションを通して、日本料理の素晴らしさや日本文化の紹介もできて楽しかったです。
カタール・チリ・エチオピアで、小学生を対象に食育の授業をさせていただいたのも、一料理人としてやりがいを感じています。
困りごとは多少ありますが、知識や経験を基に日本のように対応するのも大事ですし、そもそも環境が違うので無理という判断を割り切ってするのも大事だと思います。
海外に出てみると、日本がどれだけ素晴らしい国かということに気づけるはずです。料理人として大きく成長できる機会であることは間違いありません。
松田 一草さん(1970年生まれ・兵庫県出身)
赴任歴:シドニー(オーストラリア)、ボストン(アメリカ)
■女性公邸料理人として後世に残したいもの
公邸料理人を志した当時は女性の公邸料理人が少なく、指名してくださる大使はいるのか不安でしたが、国際交流サービス協会の後押しもあり思いのほか早く赴任先が決まりました。
赴任当初は、メニュー考案から買い出し、料理の準備全て一人で担うというプレッシャーがありましたが、大使とも相談して、同じメニューを何度もお出ししながら少し味を変えてみたり、盛り付けに変化をもたらしてみるなど試行錯誤しました。現地の料理人とも交流するようになり、少しづつ外国人の嗜好が分かってきて、会食にお出しする料理が構築できたと思います。
公邸がある場所は大抵閑静な住宅街です。周囲には素敵なお屋敷やお庭があり散歩を楽しんだり、庭に畑を作ったり。生活面でも充実していました。
料理面で心掛けていることの一つが「お客様の心に残る一品を作る」ことです。食事の後に「おいしいお食事をありがとう」と声をかけていただくと、この仕事を続けていて良かったと感じます。
私の夢は、女性料理人の育成、女性が働きやすい環境に配慮したお店を日本で作ることです。今は海外の女性シェフともSNS繋がり、どのように仕事と家庭を両立させているか話をしています。
村田 晴児さん(1980年生まれ・大阪府出身)
赴任歴:ジブチ、パキスタン
■大使夫妻や公邸職員との間に生まれた「家族のような絆」
初任地はアフリカのジブチ共和国。アフリカ大陸に渡ったこともなければ、ジブチを赴任地として紹介された時に国名すら知らなかったほどです。インターネットで調べても有力な情報は皆無に等しい状況の中で赴任しましたので、毎日の暮らしすら見えないのではないか?と思うほど全てにおいて不安でした。しかし大使夫妻や、執事である公邸職員との良好な関係性を築くことにより『案ずるよりも産むが易し』という言葉が正にこのことだと実感できるほど順応していきました。
現地スタッフである公邸職員と、ほぼ毎日のように生活をともにすることで、家族のような絆も生まれました。海外の方は仲間へのホスピタリティ精神が強く、旅行だけでは絶対に体験できないような異文化交流や、ガイドブックに載らないような絶景ポイントへの訪れなどさまざまな経験をさせてくれました。
また日本国籍・外国国籍問わず、公的機関で働く有能な方々と親密になれたことで自分自身の教養や価値観に幅を持たせることができたことも良かったです。
▼公邸料理人3名の詳しいインタビューの内容は別の記事にて紹介しています。興味のある方はこちらもご覧ください。
世界に羽ばたく食の外交官!公邸料理人インタビュー
登録~赴任までの流れ
ここまで公邸料理人の仕事内容ややりがい、外務省担当者や公邸料理人の「声」をお届けしてきました。「公邸料理人として海外でチャレンジしたい」と思われた方は、設置しているフォームより登録をお願いします。
STEP1 専用フォームより登録
フォームの必須事項、質問事項に記入後送信してください。
※お預かりした情報は、クックビズが責任を持って管理し、国際交流サービス協会へ提供します。
STEP2 登録者を選抜
公館長の希望条件に基づき、登録者の中から該当者を選抜。国際交流サービス協会担当者より連絡します。
勤務開始時期や赴任先の詳細は案件発生ベースでの決定となります。
STEP3 候補者へ意思確認・意志表示
以下をお伝えします。
・勤務地
・勤務開始時期
・待遇
・勤務内容
勤務地等の条件が希望と一致しない場合は、お断りいただいて構いません。断ったことで登録が取消されることはありません。
STEP4 書類審査
候補者の意志を確認後、求人登録票を公館長にお渡しします。書類審査は公館長が行います。
STEP5 面接
公館長が面接を希望する場合、対面またはWEBで面接を行います。対面の場合、東京近郊以外から上京する候補者には面接に伴う片道交通費が支給されます。
STEP6 採用決定
公館長と候補者の意向が合致した場合、採用決定となります。
STEP7 赴任手続き
国際交流サービス協会が公用旅券や査証の申請、航空券の手配を行います。
▼登録はこちらから
公邸料理人登録フォーム
まとめ
今回は公邸料理人について紹介しました。登録するとなると応募資格のハードルが高いのでは?と思われがちですが、実際は20代の若手からベテランまで幅広い年齢層の料理人が登録しています。何よりも「向上心」と「チャレンジ精神」を重要視するとのことですので、海外で働いてみたい方はこの機会に登録ください。先輩公邸料理人の声からもわかるように、何ものにも代え難い貴重な経験ができるはずです。
「食の外交官」として、世界各国で活躍する料理人になりませんか?