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カッコイイ店が居心地がいいとは限らない
──金澤さんが、デザイナーとして大切にしてることはなんですか?
まず今も昔も変わらないのは、「オーナーさんのためのデザイン」。わかりやすくいうと「流行るデザイン」です。
──流行るデザインって何なのでしょうか。少しぐらい雑多なほうがいいとか?
それはそうですね。居心地の良さはね、カッコ良さだけじゃない。天井も壁も真っ白やったら、カッコイイかもしれないけど、ぜったい落ち着かないんですよ。天井が高いお店はみんな喜んでやりたがりますけど、かなりの冒険なんですよ。
──でも今春、貴社が奈良に初出店された「good spoon 高の原テラス店」に行きましたが、天井が高くて気持ちよかったです。
ありがとうございます。人を心地よくさせるデザインというのはね、「間を埋める」という作業がとても重要なんです。高の原テラス店は、天井に木目を張り、天井からファンや照明をぶらさげたりしてね。
──確かに。大きな扇風機がぶらさがってたり、飛行機の格納庫にいるようなワクワク感がありました。
椅子もテーブルも、ちょっと見てもらったらわかるんですけど、あえてバラバラにしてるんですよ。わざとそろえていない。
僕はね、人がいないカッコイイ空間は作らないんです。例えば店舗の撮影をするなら、シンプルに統一感をだしたほうがカッコイイ写真にはなるんですよ。でもそこに人が入り、空気が流れ出す…。そんなことを考えながらいつもデザインしています。目的は人がにぎわう繁盛店を作ることだから。
──人がいる空間や雰囲気が大事なんですね。金澤さんの「繁盛店のものさし」はどのようにしてできたのでしょうか。
もともと外食など、飲み食いするのが好きだということ。デザイナーとして経験を重ねたこと。あとは、なんでしょうね(笑)。依頼主からは「変わったことをしたい」という要望をよく受けますが、業態と店のギャップがありすぎる店だと、それはもう違和感でしかないんですよね。
──自分のお店だから思うようにしたいと考えるオーナーさんは多そうです。
そうですね。もちろん依頼主さんのご要望とあれば、こちらからアドバイスはするものの、言われたとおりに設計しますよ。でも、わかるんです。「あぁこの店、流行らないな」って。8~9割当たりますね。
あと僕の強みは、「こんなことしたら流行るんちゃうか」という提案が、空間づくりと結びついてできること。多くの店舗デザインを手掛けてきたことで、経験やノウハウが蓄積され、店のコンセプトからプロデュースすることもできるようになりました。今はプロデュースの依頼も受けています。デザイン×プロデューサーを1人の人に依頼できるのも、ほかにない特徴かもしれません。
──「デザイン×飲食」の二刀流じゃなくて、プロデュースを入れて三刀流ですね。
みんな3つ3つっていうけど、僕の中ではひとつなんですよ。飲食にまつわることを全部やってるというだけ。「業態」を考えて「デザイン」があって「経営」ですよね。
あっ、言っときますが、僕は料理もサービスもまったくできないんですよ(笑)。
『カシコク・カナウ・カッコイイ』の3Kとは
──今日のお話だと、「金澤さんの人生に不調なし」といった印象を受けます。
そんなことないですよ。独立した時もお金はなかったし。でもやりたい事をしていたんで納得ずくなんです。それより、2008年のリーマンショックのときは3年ぐらいしんどい期間が続きました。発注が相次いで止まりましたからね。あとは人に裏切られたり、昨年(2018年)は、大阪府北部地震、台風、集中豪雨と災害続きで、トータルして1カ月分近く売上を落としました。
──昨年は災害が多かったですね。でもそんな時こそ「人」の力が大切なのでは?スタッフ育成はどのようにお考えですか。
いや~、スタッフも増え、会社の規模も大きくなってきているので、大変なことはいっぱいあります。飲食事業の各店長には大きな裁量権を持ってもらい、現場主体で動ける仕組みにしています。
カームデザインでは、主体的に働く楽しさを知ってほしいと『カシコク、カナウ、カッコイイ』の3Kを掲げています。
3Kには、
- プロ意識を持って”カシコク”働き
- なりたい自分が“カナウ”
- そして“カッコイイ”仕事環境で、働く人がカッコよく輝けるように
という意味があります。
──いかがですか。今の課題は?
そうですね。実際、100人を超えてくるといろんな事が変わってきますね。
小ぢんまりしていたころに比べて、僕や幹部クラスが多忙を極めるようになりました。そうなると、一般スタッフとのコミュニケーションが少なくなったという声もあります。
──社員数が増えると、また新たな局面があるんですね。
正直な話をすれば、昨年、スタッフの休みを増やすよう努力しました。制度としてはまだ確立していませんが、福利厚生に着手したんですよ。そうしたら、若干ですが会社がマンパワーに伸び悩んだような気がしていて(苦笑)。そのへんのバランスをとるのは、なかなか難しいですね。
スタッフから、カッコイイと思ってもらえる会社をめざすのみ!
──労働環境の整備は時代の流れでもありますね。
そうですね。これは大手焼き鳥チェーンの「鳥貴族」大倉社長の受け売りですが、
まず会社は「正しい会社にしないといけない」と思っています。
──「正しい会社」とは?
働きやすい環境づくり。これは飲食業界で生き残っていくために、今後もやっていくべきことです。
次に利益を出す会社であること。正しい会社なんて、利益が出ないと作っていけないんで。
で、最後に社員から「会社のファンだ」と言ってもらえるような会社になること。ついていきたくなるような上司、そして会社であり続けること。私も幹部クラスも、です。
──身近に手本となるべき先輩・上司がいるのは、社員にとって幸せなことですよね。
社員には会社のファンでいてほしいです。そのためには、やっぱり良い会社にしていかないと。今、社員の要望すべてに応えられない部分もあると思います。それでも社員にとって“カッコイイ会社”であるように、ついていきたいと思ってもらえるように、努め続けることが大切だと思っています。
──今後のカームデザインの方向性は?
当社のデザインという軸を活かしてホテルの経営を考えています。キャンプ場なんかも隣接しているといいですね。空間と宿泊と料理を楽しんでもらう趣向です。そこでは、宿泊者のためだけの料理しか作らない。
──ホテル経営、いいですね!
“儲けるため”のものではなく、例えば今日、ご宿泊いただく30名の方には、必ずご満足してお帰りいただくような。「今日の30名全員をぜったいに喜ばそう!」とみんなで思って仕事ができるような、そんなホテルです。
5年後になるのか、10年後になるのか、わからないですが、そういう方向をめざしていきたいですね。
これからも、いつもおもしろいことをしていこう
──最後に、飲食業界で働く若手にメッセージを。
僕がよく言うのは、「飲食店の10年後20年後を見すえて仕事をしよう」ということ。10年後、自分はここでキャリアをめざしているのか、独立しているのか。自分とマーケットに照らし合わせて考えること。
──みんな流されるように生きてしまいがちです。
まぁ、そうですね。でもシンプルでもいいんです。例えば、当社でいうなら、10年後20年後を見すえて、短期的に儲かるための出店は、手を出さないでおこうと考えています。
──それは流行りを追いかけるのは止めようということ?
「食」ってね、ファッションでもあるので、流行りはずっと求めていかないといけないんです。わかりやすく言うと、売り上げと利益だけのために店を出すというのは当社ではNGにしようということです。
──金澤さんの今後がますます楽しみです。
僕、分析するのは好きなんですよ。デザイナーですが、こう見えて数字も強いんですよ。で、未来を考えるのは創造の世界なんで楽しい。人口減の流れを考えると、飲食は難しい業界になっていくと思いますが、これからも、絶えずおもしろいことをしていきたいですね。
編集後記
幼稚園の頃から絵を描くのが好きだったという金澤さん。「好きなことが仕事になっているから、こんな幸せなことはないんですけどね。グラフに点線があるのは、気持ちと現実とのギャップ」と笑いながら、人生の折れ線グラフを書いてくださいました。
強面(こわもて)な表情と、時折見せる優しい笑顔のギャップが印象的。「今でも人は苦手」とのことでしたが、交友関係も幅広く、新しい挑戦に満ちていて、とてもエネルギーを感じる方でした。
<インタビュー・記事作成:杉谷 淳子、撮影:Banri>
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