年商60億以上を売り上げる飲食店企画・経営の会社バルニバービ。2015年10月28日、マザーズ上場。

 

そのほとんどのお店が、CAFE GARBやアダッキオ、リバーサイドカフェ シエロ イ リオなど、同一ブランドによるチェーン展開ではなく、そのお店独自のブランドを持つ、個店のようなお店だ。

 

一時の流行を追った業態開発やデザインを使用した店創りは一切行わない。統一されたオペレーションマニュアルは存在していない。重要視しているのは、立地毎の「長く愛されるレストランとは何か」を追い続ける事である。

 

約20年間追い続けている立地毎の飲食店開発は、ディベロッパーから街づくりの一環として捉えられる様になり「自分のところにお店を出して欲しい」という引き合いが絶たない。不動産業者、ビルオーナー、自治体など。今年度は、重要文化財指定にもなった大阪市中央公会堂での店舗運営コンペにも勝利し、出店した。

 

そんなバルニバービだが、1号店は1995年、大阪中央区南船場にオープンした「Hamac de Paradis(アマーク・ド・パラディ)」。当時は「こんな場所では無理だ」「すぐに潰れる」「せいぜい3ヶ月しかもたない」と言われた中でのオープンだったが、一号店は今も同じ場所で訪れる人々にホッとする空間を提供している。

 

クックビズ総研では、そんなバルニバービを産み出し、拡大させ、飲食業界に知らしめた佐藤裕久氏がどのような男なのかに迫る。

 

カフェでの佐藤氏と藪ノの対談

■佐藤 裕久氏プロフィール■

1961年 京都市上京区西陣生まれ。実家の菓子屋の手伝いを通じ、幼少の頃から「商い」を身近に感じながら育つ。地域に根差した店舗作りを展開する傍ら、商業施設のプロデュースや、起業・経営についての講演会なども行い、幅広く活動する。 現在、東京・大阪をはじめ全国に62店舗(2015年10月末時点)のレストラン・カフェやスイーツショップを展開。著書に「一杯のカフェの力を信じますか?」(河出書房新社)、「日本一カフェで街を変える男」(グラフ社)がある。

佐藤氏の店舗開発:バッドロケーション戦略、あるいは感性

−−−バルニバービの店舗は、実に個性的で、地元の人達に愛されるお店が多いような気がします。今日の「アダッキオ」も非常に色気のあるお店です。実際に店舗開発の際には、佐藤さんが見つけてくることも多いと聞きましたが、新しい店舗を出すときはどのように行っているのでしょうか?

佐藤氏:僕たちの出店には明確な戦略がある。「バッドロケーション戦略」。バッドロケーションというと、さびれて風化した土地のイメージがあるかもしれませんが、僕たちにとっての「バッドロケーション」とは他の外食事業者が注目していなかった場所で、好立地とはいえない場所ではあるけれども、人々をほっとさせるような街並み・水辺・公園等、周辺環境に恵まれた場所、のことをそう名付けている。

 

出店場所を探すとき、歩いたり、ランニングしたり、知らない街でもすぐにいろいろと行ってみてそういうロケーションを見つけたり、出張先でも、地元の人に面白い場所を紹介してもらったら、じっくりと見るために延泊してみたりもするよ。ランニングも、いつも違うコースを行くし、現地を這い回って、バッドロケーションになりうる「におい」をかぎつけるんだ。そういう意味では、僕は野良犬みたいなもんだね。

 

もちろん、感性が合うような人から紹介してもらうこともある。街場の不動産屋さんにも、そういう人はいたりするしね。その街や周辺環境を知っているからこそバッドロケーション、と僕たちが考える場所を教えてもらえる。

 

人が目をつけないからこそ得られる利点(低家賃、大きな面積の確保など)を活かし、地元の人々に長く愛され、支持される店をめざせる。それが、しいては地域に賑わいをもたらし、住みたい街へとなり、不動産価値をあげ、1軒の店が街を変える事へとつながると僕たちは考えるんだ。

 

・・・ここらもいい場所だよね。川があって、子供たちが遊んでてさ。このへん500円のランチやってるとこあってさ、しかも美味しいのよ。こんなとこにカフェでも作ったら街の彩りになるかな。

 

インタビューの中での何気ない一言。ただ、このさりげなさの中に、同社の卓越した店舗開発の神髄がある。佐藤氏率いるバルニバービの店舗開発は、実に独特だ。駅前や今流行りの場所を選ぶのではなく、街の風景を作り出していけるような場所を選び、内製化した企画部と作り上げていくのだ。

 

アダッキオ天井裏の吹き抜けの様子

北千住の「アダッキオ」。昨年オープンしたこのピッツェリアは、元は日本家屋の蕎麦屋だったという。彼がバルニバービの仲間達とランニングをしている際に、見つけた蕎麦屋の風情、梁の雰囲気などに「におい」を嗅ぎつけ、オープンすることを決めたという。

 

バルニ佐藤氏と藪ノ

今もすくすくとそびえたつグリーンウォールは最初にこの物件を見たときからあったもの。周囲の良好な環境を取り込むカタチで統合的に自社内でデザインするそんなバルニバービの戦略が顕著に表れている。そんな「アダッキオ」は、北千住の町並みに、彩りを与える場として、地元の人にも愛され、客足が途絶えることがない。

 

青いナポリの大木を昇る佐藤氏

こちらは、文京区小石川の「青いナポリ」。印刷所に食い込んで生えている古樹の生命力に強烈な印象を受け、地主と交渉し、まるでツリーハウスのようなこの古い印刷所を、カフェとして生まれ変わらせたものだ。

 

aoinapoli-057

この店の屋上に生える木は、17年前、大阪でやっていたエナルジアという店舗の路面に生えていた木だ。エナルジアの閉店の際、佐藤氏は生えている木を抜いて、いったん知り合いの農園に育ててもらっていた。それを7年前、『青いナポリ』のオープンの際に、関西から持ってきた。そんな歴史の積み重ねがあるものだ。

 

佐藤氏:飲食店の経営としては、短期的には効率的では無いのかもしれないが、結果的には20年続くことを考える。そうした歴史、時を経た思いは、お金では買えない。飲食店というのは、人生と同じ、そういう時間軸の中にあるものだと思うから、僕はこの木々を東京に持ってきたんだ。

 

出店の戦略ももちろんだが、こうした、再現性の難しい、佐藤氏独特の感性こそが、バルニバービの居心地のいい店舗を作る神髄なのかも知れない。

仲間たちへのメッセージ「なりたい自分になれ」

−−−個性的な店舗を経営する上で、人材も重要な要素かと思います。佐藤さんは、バルニバービではどんな人と働きたいとお考えですか?

 

佐藤氏:どんな人と働きたいかって?・・・『食』を通じて、なりたい自分になる。そんな思いを持っている人を仲間にしたい。自分の力で人生を切り開いて、リーダーとなって仲間を幸せにする。そんな人は独立して経営者になるべきだし、僕たちはそういう子達を応援したい。

 

もしそいつが店を出したいなら、不動産や、仕入れ値の交渉、マネジメントを支援する。バルニバービには、コンテンツがあり、各ステークホルダーとの交渉力があり、ファイナンスもできる。

 

−−−つまり、バルニバービでは働く仲間が独り立ちをしていくのを積極的に応援する、ということですか?

 

佐藤氏:バルニバービでは『なりたい自分になる』ということを大事にしている。それは、人によって違うものだし、皆が経営者になるべき、とも思わない。ただ、自分で店をやりたいと考えているやつが『なりたい自分』に入っている人間は積極的に支援したい。

 

なんでもできるやつでなくても、何か一つ、秀でたものがあるなら、他は僕たちが支えられる。

 

佐藤氏2

バルニバービとの繋がりは、緩やかなものでいいし、独立資本でやりたいならそれも良い。会社への見返りより、お客さんを幸せにすればいい。

 

ただ、実際には1人で独立しても、ちょっとしたことでつまづき、失敗することがある。僕にもそんな経験があった。でも、バルニバービにある、様々なノウハウや交渉力があれば、そうした足りない部分を支えてあげられる。

 

まあ、独立支援の話は、別にバルニバービで働いていなくたっていいんだけどね。僕たちの思想に共感してくれる店が他にもあれば、そういう人達と一緒にやるのだってありだ。ユニオンみたいな、飲食業の共同体を作れるといいね。そういう、僕たちの企みに、一緒に載ってくれるひとがいい。

 

彼と最後までやり取りをして気づいたことがある。それは、彼が店舗で働くバイトや社員を「スタッフ」と一度も言わなかったというところだ。

 

 彼は、バルニバービで働く人たちを”仲間”と表現する。

 

青いナポリの従業員のまかない食事風景 (1)

佐藤氏:仲間の写真も撮ったって。いい店ってのは仲間のハーモニーで作り上げるものやん。

 

仲間だからこそ、『なりたい自分になる』ということの体現を、応援したいと考えているのかもしれない。 お客さんの笑顔のためにサービスや空間を提供する者たちを仲間と思っているからこそ、彼の周りには人が集まるのだろう。

仲間への信頼

 

いい店は仲間のハーモニーで作り上げるもの。

それは人と人との信頼関係があってこそ。

 

佐藤氏はいう。

カウンターで一人料理人がやる店でも、300席あるような店でも、飲食業というのは決して一人ではできない。カリスマ的な接客術があるホールスタッフや、感動的に料理の腕が長けているようなシェフがいるとしよう、でも個性が強くても一軒の店として個人店ではない限り成り立たないのだ。

 

そこに集まる一人一人が日常の中で共に過ごす中で、時に喜び合い、時に葛藤しながら信頼関係を構築し、想いを共有することで「信用」がはぐくまれていく。

 

あるエピソードがある。

 

前述した小石川にある「青いナポリ」の物件は当初ガーデンカフェにする予定だったそうだ。

ただ、そこにあるシェフ候補を連れて行ったときに「僕はカフェのシェフはしたくないんです。イタリアンのシェフがしたいんです!」彼が放ったその一言がこの店をバルニバービ初のイタリアン専門店に変えたのだ。そしてそのシェフが連れてきたピザ職人により同時に初のピザ窯を導入することにもなる。

彼の熱意と、また今までの構築してきた「信頼関係」から生まれたこの店をきっかけに、バルニバービではピッツァを専門とする料理人「ピッツァイオーロ(職人)」という肩書が誕生し関東・関西にはピッツェリアが続々と誕生、ピッツァを専門職としたい若者が集まっている。

ちなみにその初代ピザ職人は今、バルニバービのプリモピッツァイオーロ(トップのピッツァ職人)でもあり、つい先日開催された日本ナポリピッツァ職人世界選手権のクラシカ部門というオリジナルピッツァの部門で優勝し、2016年にはナポリの本大会に出場するという。

 

佐藤氏:その子ね、岡田っていうんだけど、そろそろ代表したらどうかなと思うタイミングで足立区千住の物件がでてきたときに、アダチのオカダだから頭文字とって『アダッキオ(AD’ACCHIO)』て名前にしてん。いいでしょう?

アダッキオ_ピザ焼きの様子

彼は今もなおピッツアが好きでピッツァを作ることに魂を投じ、自分の名前の頭文字がついたお店を切り盛りしているのだ。

 

社長が「仲間を信頼している」といえば正直「綺麗ごとだ」と思う人も少なくないだろう。

 

けれどそれは甘ったらしい信頼関係ということではなくて、一人一人の「なりたい自分」を共有し、時にギリギリまで追い詰め、時に追い詰められ戦い抜く真剣勝負の向こうに存在する佐藤と仲間との関係性なのだ。

佐藤氏がカフェで1人座っている

 

 

一人一人の「なりたい自分」を仲間で共有し、またそんな仲間への想いへの熱さがバルニバービを成立させているのかもしれない。

(聞き手:クックビズ 藪ノ賢次、文:クックビズ 齋藤理)