(この記事はファームビズで2016.5.31に公開された記事の転用となります)

今回おすすめする本は 「トウガラシの世界史 辛くて熱い『食卓革命』」。
今や世界の食卓を席巻するトウガラシは、いつ・どこから来たの?

植物学と民俗学の専門家が、トウガラシの意外なルーツと伝播の歴史を、世界各国の“熱くて辛い”食文化とともに紹介しています。

著書プロフィール:
山本 紀夫(やまもと のりお)
1943年、大阪市生まれ。京都大学農学部農林生物学科卒業、同大学院博士課程修了。国立民族学博物館教授を経て、同館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。専攻は民族植物学、農耕文化(アンデス地方)、山岳人類学。「ジャガイモのきた道」「インカの末裔たち」「雲の上で暮らす」など著書多数。

激辛トウガラシとの出会い

トウガラシといえば韓国伝統のキムチやインドのカレーを思い浮かべますが、その起源は紀元前8000年の中南米にあるそうです。

著者の山本紀夫さんがトウガラシに魅せられたのも、学生時代に訪ねた南米のアンデスでのこと。
ボリビアで見かけた小指の先ほどの緑色の果実を口にすると、飛び上がるほどの辛さ!「ウルピカ」と呼ばれる野生種だと教えられます。
著者とトウガラシの40年以上にわたる付き合いの始まりでした。

本書では、トウガラシを追って世界を旅した著者が、現地で見つけためずらしい品種や、舌や喉を麻痺させながらトライした激辛料理などを通して、トウガラシの歴史と魅力をひも解きます。

民族学者らしく、旅先の風土や文化もふんだんに盛り込まれており、ちょっとマニアックな旅行ガイドとしても楽しめる一冊です。

トウガラシの起源と植物学的な説明

第一章では、トウガラシの起源と植物学的な説明が、イラストや写真、詳しい図表付で語られます。

大航海時代、辛さが世界を駆けた

16世紀はじめ頃、コロンブスが新大陸からヨーロッパにあまたのものを伝えたのは有名。

中南米に生息していたトウガラシも、その一つでした。当初「食べたら死ぬ」とまで敬遠されながら、一度味わった辛さはまるで麻薬のように人びとを魅了。

大航海時代に発達した海路に乗って、わずか半世紀で、アフリカ、インド、東南アジアを駈けて日本まで。
また、ヨーロッパの大国がすすめた植民地政策により、戦争や奴隷貿易がはびこる情勢でもありました。
この数奇な時代背景が、ヨーロッパ-アフリカ-南アメリカというルートを生み広く世界へ拡散したと、悲運な歴史とトウガラシの関係を解説しています。

元来、キムチも火鍋も辛くなかった

トウガラシには、栽培しやすく品種改良も容易という利点もありました。各国で、食材としてだけでなく、薬やスパイス、鑑賞用にと、生活や文化にあわせてさまざまな変遷をとげています。
たとえば、韓国のキムチや、中国の火鍋。もとはどちらも、辛くも、赤くもなかったんですって!

伝統食をも変革したトウガラシ。韓国・中国を訪ねた著者は、腐敗防止や消臭などの効用だけではない秘密に迫ります。

黄金の国・ジパング行きを叶えられなかったコロンブスですが、トウガラシはその時代にしては驚くべき早さで日本へ。辛さに弱かった日本人は、万願寺唐辛子やシシトウのような辛みの少ない品種や、多色多様な観賞用の品種を生みます。それでも、近年は「激辛」ブームが巻き起こるほど、辛さに慣れてきた日本人。トウガラシとの関係は、まだまだこれから深まっていくのかもしれません。「コロンブスは黄金よりもはるかに役に立つものを見つけていた」とは、著者の弁です。

■「トウガラシの世界史 辛くて熱い『食卓革命』」
山本紀夫・著/中公新書
定価:本体860円+税