飼い喰い~三匹の豚とわたし

(この記事はファームビズで2016.1.22に公開された記事の転用となります)

今回はちょっと変わった体験ルポ「飼い喰い 三匹の豚とわたし」をご紹介。
世界各地の屠畜場を取材してきた著者が、豚の受精から分娩に立ち会い、軒先で豚を飼い、屠畜し食べるまでの体験記です。
自身が描くイラストも見どころのひとつです。

著書プロフィール:内澤旬子(うちざわ じゅんこ)
イラストルポライター。日本各地,海外諸国へ出かけ、製本、印刷、建築、屠畜など、さまざまなジャンルを取材し、精密な画力を生かしたイラストルポに定評。著書に『世界屠畜紀行』『センセイの書斎』『おやじがき』『身体のいいなり』(2011年度講談社エッセイ賞受賞)など。

動物の愛玩と食肉利用に感情の境界があるのか

著者は、2007年に「世界屠畜紀行」(角川文庫)を出版した内澤旬子さん。

各国の屠殺現場を取材してまわり、どの地でも感傷にひたることなく、常に「食」としてクールに、そして敬意をもってルポを重ねてきました。
そんな著者が本を書き上げたあとに感じた疑問。

それは動物の愛玩と食肉利用に感情の境界があるのかということ。
その答えを知るために、見切り発車で東京から千葉の廃屋に移住。豚小屋を建てて、畜産農家さんの協力を仰ぎながら、実際に3匹の豚と暮らし始めます。

あくまでもゴールは食べること。
できるだけ美味しくなるように豚の世話に明け暮れます。

生まれることと死ぬこと

本書では、豚の生体に対するオドロキや、肉になるまでの流れがイラストとともに赤裸々に綴られています。

3匹の豚に振り回される日々。豚は人の言葉を理解しているし、頭もまわる賢い生き物だということが伝わってきて、思わず笑ってしまう場面も。

そんな著者が衝撃を受けたのが豚の出産です。
1晩に母豚17頭から生まれる約170頭の赤ちゃんの分娩。てきぱきと処理を施す養豚場の女性スタッフのそばで、著者も薬剤注射、しっぽ切り、犬歯切りを手伝いながら、目の前で繰り広げられる生まれることと、死ぬことにを目の当たりにし圧倒されます。

─生まれるそばから死んでいく豚に対面することで、何かが変わった。もし私があの時濡れた赤ちゃんを掴んで母豚の乳房につけてやったら、生きたのだろうか。 …中略… 違うそうではない。今、自分が圧倒されているのは生まれることの、死との隣り合わせの、文字通り紙一重の、どうしようもないはかなさだ─。(本文抜粋)

激変する養豚業界にあって、変わらない畜産という仕事の魅力とは

手頃な価格で手に入る豚肉ですが、本書では、その陰に畜産業や食肉センターを営む人たちの大変さがあることにも触れています。

後継者不足、1戸あたりの飼養頭数の肥大化は、単純に数だけみても歴然。
1971年には約40万だった豚飼養農家戸数が、30年後は約1万戸と40分の1に。

逆に1戸あたりの飼養頭数は約17頭から、なんと約900頭に。
多頭飼い・省力化がメジャーになっている養豚経営ですが、病気にかかった際のリスクや、輸入自由化の影響で頭数を確保しなければ食べていけないという現実もあります。

そんな中、著者が感じる畜産の魅力とは─。

─自分がやってみて思ったのは、生き物を育てていれば、愛情は自然に湧く、ということだ。…中略…  動物の死と生と、自分の生存とが(たとえ金銭が介在したとしても)有機的に共存することに、私はある種の豊かさを感じるのだ。畜産の根本には、この豊かさがある─。(本文抜粋)

3匹の豚を飼うことで、畜産の本質と、そこにある豊かな魅力にたどりついた著者。

戦後、日本は食卓と農場がどんどん離れていき、今や消費者がその魅力を実感しにくくなっています。
この本には、消費者には見えにくい畜産業の魅力と裏事情がわかりやすく描かれています。
豚との日常生活もユーモラスで一気に読めますヨ。

■『飼い喰い 三匹の豚とわたし』
内澤旬子(著)/岩波書店 定価:本体1,900円+税