神戸に無濾過生原酒のみを取り扱い、名店に卸している酒屋さんがあるという情報を聞きつけ、王子公園すぐ近く、「酒の店 神興」に伺った。
日本酒を保管するための冷蔵庫が数台設置され、事務所兼保管庫として大切に日本酒が冷蔵保管されてる。
無濾過生原酒とは、いったいどのような日本酒なのだろうか。
無濾過生原酒との出会い。無濾過生原酒に魅せられて
いっちゃん
今日は日本酒のこと、無濾過生原酒のことをお聞きかせ頂ければと思いますのでどうぞよろしくお願いします!
いっちゃん
無濾過生原酒のことをお聞かせ頂く前に、まずは川邊さんのことをお聞きしたいのですが、無濾過生原酒専門店をどのような経緯でされることになったのか、お聞かせいただけますでしょうか。
川邊氏
いまぼくは36になるんですが、20代前半はホームページを作るWEB制作会社に勤めてたんです。
当時は遅くまで働いてましてね、仕事終わるのが夜11時だったりしたんです。その会社で3年ぐらい勤めていました。
ある日、仕事が終わって、その日も遅かったんですが、まだ営業しているお店があったんで入ったんですね。
その当時まだ開店したてだった「其楽」というお店なんですが、そのお店ではじめて無濾過の生原酒という日本酒を飲んだんです。
それが無濾過生原酒との出会いだったんですが、衝撃的で、はまっちゃったんですよ。
それから毎週のように「其楽」に行くようになって、年齢も比較的近いこともあってご店主の有田さんとも仲良くなったんです。
いっちゃん
WEB業界からの転身だったんですね。
川邊氏
そうです。
それから、有田さんと公私に渡ってお付き合いさせていただくことになって、飲食店のWEBサイトとかも作るようになっていたんですが、だんだん自分の中で日本酒を売ってみたいなという気持ちが芽生えたんですね。
それで、これはたまたまなんですが、有田さんたちの蔵巡りについていく機会があったんです。
その時に日本酒業界の現状を知る事になったんですが…
日本酒って日本の國酒じゃないですか、日本でのアルコール消費量全体で、日本酒が占める割合ってどの程度かご存知ですか?
いっちゃん
んー、2割とか、ですかね。
川邊氏
当時は焼酎ブームで、日本酒がまったく売れない。という時代だったんです。で、ぼくがその時聞いたのが、8%。
日本の國酒である、日本酒の消費量が10%切っていたんです。
近年は日本酒が見直されてきたこともあって伸びてきていますが、それでもまだ低いんじゃないかと思います。
その消費量が少ないという話を聞いて、ぼく自身、無濾過生原酒にはまっていたので、ショックを受けたんですよ。これはいかんと。
これだけ蔵元の方々が真剣につくったものが、全然売れないと苦しんでいる。その現状を目の当たりにして、これはいかんやろと。
ワインや焼酎が数万円で売れているのに、國酒である日本酒が数千円でも売れないというのが納得いかなかったんです。
お蔵さんはどう売っていいかというところに悩まれていましたし、お手伝いしたいなと。そう思いました。
それでお酒売るぞと、この商売をはじめました。
いっちゃん
WEB制作会社から小売販売と、なかなかの転身ですね、不安はありませんでしたか?
川邊氏
先程の「其楽」の有田さんの影響もあって、飲食業界の繋がりが出来つつあったんです。
それに、当時は無濾過生原酒専門に取り扱うという業者がまったくと言っていいほどなかったんです。
ぼくは無濾過生原酒のポテンシャルや魅力を感じていましたし、これを取り扱って商売したいという気持ちが強かったですね。
無濾過生原酒はとてもデリケート
川邊氏
そこから蔵めぐりです。
日本全国の酒蔵を巡って、取り扱わせて欲しいとお願いしにいきました。
日本酒が売れない時代ということもあって、ぜひぜひ!という感じだったんですが。
「生」を扱いたいんです。と言ったとたんに、「え?」となって(笑)
と、いうのはですね、無濾過生原酒は取扱いがデリケートというか、とにかく劣化が速いんですね。
つまり保冷した状態で取り扱う必要があるんです。
お蔵さんからすると、ちゃんとした管理がされないまま蔵のお酒が提供され、質が下がってしまったお酒を飲んで蔵のブランドに傷が付いてしまう。ということを恐れていたんです。
ちなみに、神興では、マイナス5℃で保管するということにこだわって徹底管理しています。配達時も冷蔵車でお届けしています。
そういうことを伝えして、取り扱いさせていただけないかお願いをしました。
酒屋の使命って、杜氏さん(日本酒の職人を指す)が精魂込めてつくったお酒をいかに質を落とさずに届けるかっていうことなので、保管管理は強く意識してます。
うちの無濾過生原酒を取り扱っていただくお店にも、可能な限りの保冷とライトの紫外線が当たらないようになどの管理方法をしっかりお伝えしています。
いっちゃん
え、ライトって、紫外線でるんですか?
でますでます。
日本酒は紫外線あたるとよくないんですね、なので一升瓶も透明でなく色が付いていたりします。
お店では、ライトを消すのが難しかったりするので、ライトに和紙を巻いていただいたりなど、そういった工夫をお伝えしています。
いっちゃん
無濾過生原酒という名称が、骨太というか特殊性のある印象を受けるんですが、どういう「日本酒」なのか詳しくお聞かせいただけますでしょうか?
川邊氏
無濾過(むろか)というのは、澱引き(酒中の浮遊物を沈澱させること)しただけの、そのままの状態を指したお酒なんですね。まさしく無濾過なので、炭素濾過の工程を行っていないお酒です。
濾過すると、雑味が取れて飲みくちがいいので、飲みやすくはなります。しかし、雑味も取れると同時に旨味も取れてしまうんですね。
なので、スッキリとして飲みやすい方がいいという方は、無濾過させないお酒がお好みかもしれません。
ですので、これは好き好みがでるので、無濾過だから美味しい。という話ではないですね。
ぼくは無濾過が好きですが(笑)
そして、無濾過生原酒の生原酒(なま)なんですが、これは火入れ(加熱処理)していないということです。
一般的に火入れするのは、品質を安定させるために行うんですね。
お酒のなかに菌(酵素)がいるわけなんですが、この菌が活動し続けるとバランスが崩れて品質が下がってしまいます。そこでバランスが取れている状態で火入れをして、その品質を保とうとさせるわけです。
が、当然火入れをするということは、日本酒本来のフレッシュさは失われてしまいます。
いっちゃん
なるほどなるほど、つまり
- 濾過させず、日本酒そのままの状態で
- 尚且つ、火入れさせていない、生きている日本酒ということなんですね。
川邊氏
あともうひとつが、無濾過生原酒の原酒(げんしゅ)なんですが、これは加水していないことを指しています。
温泉の「源泉」みたなもんですね。お湯を足してないですよみたいな。
川邊氏
そうですね(笑)
この3つの特徴(無濾過、生、原)は、ようは、お酒自体に鮮度があるということなんですね。
そこでうちでは、先程言いましたマイナス5℃での保管。
マイナス5℃にすることによって、お酒の中の酵母が仮死状態になるんです。
なので極めて変化しにくい、つまり品質が下がらない状態を維持できるんです。完全ではないですけどね。
時間が経てば少しずつではありますが、熟成はしていきます。
楽しみ方は人それぞれ、奥深い無濾過生原酒のたのしみ方
いっちゃん
なるほど…っということは保存状態がしっかりしていても、早めに飲んだほうがいいということになるんでしょうか。
川邊氏
保管状態がよければお酒にストレスが少ない状態で熟成されるので、品質としては良い状態で変化しています。綺麗なお酒になっていきます。
先程鮮度とはいいましたが、新しい=美味しいという単純なものでもなくて。
お酒なので、新酒の場合、まだアルコールと日本酒の味が分離していたり、香りが浮いて味がついてきていないこともあるんですね、それが熟成されると、まとまってバランスが取れたお酒になっていくんですね。
いっちゃん
なるほど、保管状態をいい状態にして、寝かせると。
川邊氏
そうなんです、これからこの「熟成」ですよね。生熟成。熟成無濾過生原酒。みたいなものをどう提案していくか、広げていくか、そんなことを考えてます。
いっちゃん
開けてしまったらどうなんでしょうか、保管状態がよくても、開けると早く飲んだほうがいいとかはあるんでしょうか。
川邊氏
お酒によって性質が違うので、すべてのお酒がというわけではないですが、開けて、先程の熟成を少し早めてあげる。ということも考え方としてはあります。お店とかだと回転も速いので、あえて開けるというお店もあります。
よくどれぐらいもつの?って聞かれるんですが、保管状態がよければ開けてもいくらでも持ちます。ですが、変化はします。ということですね。
開けると当然空気に触れて酸化するわけですから、開ける頻度が多かったり、表面積が広ければ、変化や劣化の度合いも大きくなります。
ですので美味しく感じていたお酒が、すこし変わってきたなと感じたら早めに飲むのがいいですよね。
いっちゃん
どの程度熟成、変化したものが”美味しい”かは、お酒によって違ったり、その人の好き好みによって違うということですね。
いっちゃん
これは深いですね(笑)
川邊氏
知識が増えればもっと楽しくなります。
楽しみ方が無限大ですからね。通になればなるほどはまります。
いっちゃん
川邊さんのお勧めの飲み方とかあったりしますか?
川邊氏
これもよく言われるんですが、熱燗にしたらダメなんでしょと言われるんですが、ぜんぜんそんなことないです。
もちろんこれも銘柄で向き不向きがあるんですが、本当に芳醇で香ばしくて美味しかったりします。
ロックにしても美味しいですよ。無濾過生原酒はやっぱり味もしっかりして濃いですし、アルコールの度数も高いので、一つ氷を入れるとこれは、これで味わいが変わって美味しいです。
ようは、これって、火入れと、加水なんですよね。
無濾過生原酒って何通りもの楽しみ方ができるんですよ。
いっちゃん
お~
川邊氏
あとお勧めなのが、しっかり冷えた無濾過生原酒を、これも冷やした錫器で飲むと、最高に美味しいです。
いっちゃん
錫ですか!
川邊氏
もちろん、お料理やその雰囲気によって、切子や陶器でも楽しめると思います。
いっちゃん
なるほど、ありがとうございます。
最後に、お取り扱いされている無濾過生原酒で売れ筋だったり、川邊さんお勧めのお酒をご紹介いただけますでしょうか。
川邊氏
うちの酒屋の特徴として、他では取り扱っていないようなお酒が結構あります。
と、いいますのも、直接酒蔵さんに伺わせてもらって交渉させていただいているので、鑑評会に出すためだけに作られているような、市場には流通しないお酒もあったりするんです。
好き好みや、どういったシチュエーションで楽しみたいか、など色々お聞きすることができればご提案させていただくこともできるので、ぜひ気軽にお問い合わせください。
いっちゃん
神興さんで取り扱っている無濾過生原酒を購入するにはどうすればいいでしょうか?
川邊氏
お近くにお住まいの方であれば、直接お店に来ていただいてもかまいませんですし、遠方の方であれば、ショッピングサイトや、楽天、Amazonなどにも出品していたりもするので、ご利用頂ければと思います。
「酒の店」神興が運営しているショッピングサイト
http://sakenomise-shinco.com/
お店で取扱いを希望される方はまずはサイトからお問い合わせください。お届けは神戸、大阪市内ぐらいまではカバーしています。
いっちゃん
本日は無濾過生原酒のお話ありがとうございました!
取材を終えて
川邊氏のインタビューで印象に残っているのが、「日本酒は米から出来ていることもあって、あらゆる料理に合う、合わせることができるお酒なんですよ。」という言葉。
いま欧米をはじめとして、世界でも日本酒が注目されつつあり、国内でも日本酒が飲み放題という「日本酒バー」ができたりなど、裾野が広がるタイミングなのではないかと思う。
筆者は日頃お酒を嗜むことはあまりないが、日本酒好きの義父に、神興の無濾過生原酒を持っていきたい。